表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/100

1代目 12

 夕飯を作っていると、携帯画面を眺めながらゆっくりと1代目が近付いてきた。

 何かのゲームをしているのだろうと気にせずにいると、

 「木場さん……」

 小声で話しかけられた。

 どうしたのだろう?と視線を向けてみると、1枚のレシートを見せられた。

 レシートの裏には毛むくじゃらの直筆と思われる文字列がズラリと3行書かれていた。

 1番上には数字とアルファベットが混ざった複雑な長文で、真ん中はIDと書かれている長文。そして1番下にはパスと書かれた、KYから始まる文字。

 「パスって、パスワードですよね?」

 と、1代目は俺の目の前でKYから始まる文字をゆっくりと打ち込んだ。

 しかし、画面に映し出されたのは失敗の文字。

 「何のパスワードです?」

 聞いてみると、1代目の携帯は3日ほど前から調子が悪く、Wi-Fiに繋がらないらしい。

 毛むくじゃらと1代目の部屋はネット環境が整っているし、無線でもちゃんとネットに繋がる。でも、ルーターの故障と言う事もあるので、俺は鞄の中からタブレットを取り出して電源を入れてみた。

 普通に繋がるし、そもそもパスワード入力画面が出て来ない。

 レシートの裏に書かれているこの文字列に間違いがあるのではないか?と眺めてみるが、正解を知らないので何とも言えない。

 「パソコンにバックアップしてるんで、それ入れてみます……」

 何のバックアップ?入れるって何を?

 色々聞きたかったのだが、トボトボと歩いて自室に向かう1代目の後姿を見ていると、見送る事しか出来なかった。

 夕食の準備が終わり1代目を呼びに行くと、何故か部屋の中に招かれた。部屋に入って見えたのは、パソコンに繋がった携帯。

 「勝手にバックアップ始まったので、無理な気がします……」

 ガックリと肩を落としているが、携帯の事を良く知らないので、何がどうなって無理なのかが分からない。

 「初期化……ですか?」

 「復元です」

 やっぱり良く分からないので、1代目と2人でモニターに映し出されている、残り秒数を静かに見つめた。

 こうして復元操作が終了し、携帯からパスワードを入れたのだが、その画面はさっき見たのと同じで失敗の文字が書かれてあった。

 打ち間違った可能性もあるのでもう1度慎重に入力してみるが、結果は同じ。もしかしたらIDの方かも?と訳の分からないテンションにまで陥ってしまったが、当然出来る筈もない。

 「これ、1番上って事はないですよね?」

 独り言のように呟いた1代目は、1番上に書かれていた長文を打ち込み始めた。だけど、求められているのはパスワードであって、意味も分からない長文じゃない。

 「毛むくじゃらが帰って来るまで待とっか」

 ヒョイと覗き込んだ携帯画面には失敗の文字はなく……成功していた。

 「こ、これっ!パスワードって……違うじゃないですか!」

 必死に笑いを堪えている1代目がレシートの1番下を指差す。

 1番下には丸印で囲われた“パス”の文字の後に、KYで始まる長文。改めて見ると、その“自分がパスワードですよ”と言わんばかりの主張っぷりに笑えてくる。

 「違うのにっ……ホンマにKY……アハハハハ」

 「アハハハハ……KYっ……アハハハハ」

 結局、KYがなんのパスワードなのかは分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ