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毛むくじゃら 14

 日曜日、俺は毛むくじゃらと2人で買い物に出かけた。

 スーパーまで食料を買いに。ではなくて、2駅先にある大きなドラックストアまで。

 そのドラックストアの近くには大きなショッピングセンターがあって、100均があって、ファストフード店まである。

 俺が欲しいのは靴と、判子と、除草剤で、毛むくじゃらが欲しいのは薬のみ。だから先にショッピングセンターに行って靴を見る事になった。

 “レジにて3割引”と言うワゴンセールをしていたが、それでもかなり高額だったので靴を諦め、判子屋さんに行ってみるとそこにはベンチが置かれているだけになっていた。

 だったら除草剤だ!と100均に行ってみるが、活性剤しか売っていない。

 「枯れさせたいのに、元気にしかならへんやん……」

 こうして欲しかった物が買えなかった俺ではあるが、何も買わずに店を出た訳ではなく……ウッドクラフトと言う物を買ってしまった……もちろん、背景ボードもセットで!

 恐るべし、衝動買い。

 ドラックストアにも100均コーナーがあったので、そこでも何か面白い物がないだろうかと見て回る。

 陶器の置物や、皿、コップ。

 「このデザイン中々可愛……」

 「触るな触るな!」

 「そう言えば小皿を……」

 「ゆっくり置いて!」

 「わぁ~、この置物……」

 「両手で持て!」

 俺が割れ物を触ると、いつもこうだ。

 ちょっとばかりムッとしたので1人でサッサと歩いて行くと、10キロから、25キロまでの握力を鍛えるグリップが並んでいた。

 25キロの商品を手にして、

 グッ。

 ギリギリ1回出来た。すると後ろからヒョイと取り上げられ、

 ニギニギニギニギ。

 「コレが1番強い奴?」

 とか言いながら、左手でもニギニギニギニギ。

 横からヒョイと取り上げ、左手で、

 グッ。

 ビクともしない。

 「……えぇ~」

 「……20は?」

 と、毛むくじゃらが20キロのグリップを差し出してきたので、

 グッ。

 ギリギリ1回出来た。

 「弱過ぎへん?」

 少しばかりムッとしたが言い返せないのでそのままその場を離れ、今度こそ目当ての売り場へ向かうと、毛むくじゃらは既に1つの薬に目星を付けていたらしく、ササッと買い物カゴの中に薬を入れた。

 それからもう1周店内を見て回ると、まだ9月だと言うのにハロウィンコーナーが設けられていた。

 黒猫の置物、魔女の帽子、かぼちゃの飾りや蝋燭。それらを眺めながら、自分達が学生の頃はこんなにも商品は充実していなかった事を思い出す。

 「こう言うのん、もう遅いよなぁ」

 「遅いって?10月やろ?」

 ハロウィンまでの日数ではないと説明をしていないのだから通じないのは当たり前で、毛むくじゃらは不思議そうにしている。

 「遅いで」

 「ん?」

 「俺らはもうお化けに扮装する側じゃなくて、お化けに扮装した子供にお菓子配る側やで?」

 とは言いつつ、きっと俺は今年も変わらずに何かイタズラを仕掛けるのだろうが。

 「確かに。まぁ、楽しんだらえぇと思うけど」

 オバケの置物を手に毛むくじゃらが楽しそうに笑うから、俺の脳内はハロウィン一色に。そして思い出した。

 「ゾンビウォークって、大阪でもするんかな?」

 「なにそれ」

 「ゾンビが歩くねん。歩いてみたいなぁ」

 「歩くん?」

 「うん。メイクとかして、本格的なゾンビに1回なってみたい」

 「そのままでイケルんちゃう?」

 少しばかりムッとしたが、確かにと納得してしまったので、そのままレジに並ぶ。

 結構人が並んでいたので、レジを待つ行列はジュースが置かれている冷蔵棚まで伸びていた。

 「なんか飲む?」

 「えぇの?」

 「えぇよ」

 2人で2種類あった秋限定のコーヒーを1つずつ選び、会計を済ませて店の外に出て、ショッピングセンター前にあるベンチで一休み。

 すると、目の前にファストフード店が見えて、フライドポテトの良い香りが漂ってきた。

 「……食べたいなぁ」

 久しぶりに食べたくなったので、軽く言ってみた。もちろん奢って貰いたいとかじゃなくて、食べても良いか?と言う確認だ。

 もし何も言わずに買って来たら、毛むくじゃらは間違いなく怒る。

 「止めとき。胃、可笑しなるやろ?」

 食べたいと軽く言っただけでコレだ。

 「久しぶりの遠出やのに。えぇやんか、たまには」

 「えぇから座り。コーヒー飲む?」

 レジ袋の中から毛むくじゃらが取り出したのは、ついさっきドラックストアで買ったばかりの秋限定コーヒー。

 飲む。と返事して隣に座り、数回振ってからストローをさして飲んでみる。

 苦味が強くて結構美味しい。

 「そっちの、どんな味?」

 「甘いで」

 と、差し出されたので、俺も自分のコーヒーを渡して飲み比べてみる。

 「なにコレ甘っ!」

 「言うと思った」

 笑っている毛むくじゃらからコーヒーを奪い返し、早速口直し。

 やっぱりコーヒーは苦めが美味しい。

 「この後、このまま帰る?」

 もしこのまま帰ると言うなら、地下にある食料品売り場で夕飯を買って帰ろうかな。

 「どっか行きたい所ある?」

 どうやらこのまま帰るつもりだったようだ。なら地下の……あ、でも冷凍庫に鮭の切り身があったような?きのこと、冷凍された肉もあったし、無理に食料を買う事もないか。だったらこのまま帰……そうだ。

 「中にバラエティーショップあったやろ?そこ寄ってえぇ?」

 コーヒーを飲み終え、一服した後ショッピングセンターの中に戻り、バラエティーショップに向かうと何人かの女性が小物を見ていた。

 入店するのは少々恥ずかしいけど、欲しい物があるのだから入るしかない。

 思い切って入店した俺に、ピッタリと着いてくる毛むくじゃら。きっと、物凄く目立っている。と意識すると余計に恥ずかしいので、大股で歩いてレジ前のピアスコーナーに向かった。

 「ピアス買うん?」

 「うん」

 返事をしながらピアスを見るが、1つ1つがしっかりと棚に固定されていて、買うには店員さんを呼ばなければならない。しかし、レジは無人。

 隣の棚では時計を陳列している店員さんがいるが、作業中に声をかけるのは気が引ける。他の店員さんはいないだろうか?と店内を歩いて回ると、1人の店員さんがお客さんと喋っているのが見えた。しかも、座り込んで。

 「店員おるやん。呼んだら?」

 え!?

 いや、座り込んで喋っている店員さんに声をかけるとか、そんな難しい事が出来る筈がない。

 話し終わるまで待つ?それだといつになるのか分からないし、バラエティーショップ内を長時間ウロウロするのはかなり怪しいし、恥ずかしいし……。

 「他の店員さん探す……」

 「なんで?そこにおるやん」

 だから!話をしている最中の人間に喋りかけるタイミングが分からないんだ!

 「え、えと……色!どれにするか選んでから呼ぶ」

 そう言ってピアスの棚の前に戻ってみたが、透明か黒か赤の3色しかない。考えなくても黒の1択だ。

 チラリと店員さんを見るが、立ち上がりもせずにまだ喋っている。

 また今度来た時に買おうかな……と、諦めかけていた時だった。時計の陳列をしていた店員さんが、レジに立ったのだ。

 今だ!

 「スイマセン!コレクダサイ!」

 手を上げて発言していた。

 「あ、はーい」

 駆けつけてくれた店員さんに、黒いピアスを指し示しながらもう1度コレクダサイと言うと、店員さんは棚の下からピアスを取り出し、俺に見せながら、

 「こちらでよろしいですか?」

 と。

 もちろん、これですとも!

 なんて声に出せる筈もなく、コクコクと頷く。だけど、ちゃんと受け答えをしなければ!と、焦ってしまい、

 「1つで良いです!」

 と、意味不明な事を口走っていた。

 最後にドッと疲れてしまった買い物が終わって1代目の待つ家に戻り、焼き鮭と、きのこのソテー。そしてインスタントの味噌汁と言う簡単な夕飯を作る。

 俺は鮭が食べられないので、きのこのソテーのみ。

 食事が終わって、後片付けも終えて、そろそろ帰ろうかと言う所で俺は最後に大事な事を言い忘れていた事に気がついた。

 「2日経って治らんかったら病院行きや」

 これだ。

 しかし毛むくじゃらは笑顔で、

 「昨日よりマシやから」

 と。

 そりゃ薬を使ってますからね!それで痛みが増しているなら速攻病院だわ!

 「えぇから、病院行きや」

 「大丈夫やって。大分引っ込んだし」

 引っ込んだって……生々しいわ!じゃなくて、本当に?それなら安心して良いのだろうか?まぁ、ヤバイ!と思ったら俺がなんと言おうとも病院には行くだろうし、生活習慣で改善も出来るらしいから大丈夫なのだろう。

 だったら最後にネタにして、笑い話にして帰ろう。

 「見せて」

 「……」

 「……」

 「……嫌や」

 「なんでちょっと考えた!?」

 「見せるんなら、風呂入ってからや!」

 「なにその乙女心!」

 「乙女っ!アハハハハ」

 1代目は、大いに笑ってくれた。

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