1代目 11
1代目と買い物に行った帰り、少しお腹がすいたと言うので持ち帰り専門のたこ焼き屋に寄った。
時間は2時ごろ、俺達の他にも何人かの客がいて、列が出来ていた。
たこ焼き屋とは言うが他にも焼きソバ、お好み焼きなども売っている。
「ペアセット1つ!木場さんは?」
お好み焼きと焼きソバがセットになった物を、結構な大声で注文した1代目は、その声の大きさのまま俺を呼んだ。
特に腹は減っていないが、こんなにも目立ってしまった後で“いらない”とは言い難い。
買うだけ買って、毛むくじゃらに食べてもらうとしよう。だったら、
「ペアセット」
こうして注文の品が出来るまで、俺は店員さんの手元をボンヤリと眺めていたのだが、スグ後ろに立っていた男性の声が気になって仕方がなかった。
何故ならその男性は、俺達が注文の品を受け取るまでの間、延々と携帯で喋り続けていた。
ただの会話ではない。
ズット、ズゥーット、
「知らんって」
「覚えてないわ」
「だから知らんって」
と、常に何かを否定していたからだ。
物忘れが始まるような年齢に見えなかったし、酔っていて覚えていないとかだろうか?それとも電話口の人の記憶違いか…。
「今の、凄かったですよね!」
たこ焼き屋から随分と離れてから1代目は、それでも小声で言ってきた。
「そうですね」
同意すると、
「相手の人もしつこかったですよね。覚えてないって言ってるのに」
自分が言われた訳でもないのに、1代目はげんなりとしている。だから、多分だけど、似たような経験があるのかも知れない。
「それだけ分かって欲しい事だったのかも知れませんよ?」
重大な何かだったなら、相手も引けない理由があるし、どっちが悪いとかはない……いや、忘れている本人が悪いのだろうが。
「知らん事を何度も何度も言われても、知らないんだからしょうがないですよ」
今度はプリプリと怒り出す1代目に、
「それはそうと、部屋の出入りが不便なので合鍵が欲しいです。良いですか?」
と、合鍵をもらった事をなかった事にしてみた。
「え?受け取ってくれたじゃないですか」
あぁ、うん。
俺から仕掛けておいて言うのもどうかと思うけど、こんなに思惑通りの返事をしてくれるとは思ってなかった。
「知りませんよ?」
「ちゃんと渡したじゃないですか」
「覚えにありません」
「え?本当に?」
「はい。知りませんよ?」
「いやいや、渡しましたよ。鞄の中とかちゃんと探してください」
「だから、知らないって言ってるじゃないですか」
「え?木場さん本当に言ってるんですか?」
通り過ぎていく人々は俺達をかなりしっかりと見て来る。どうやら喧嘩をしているように見えているらしい。
喧嘩じゃなくて、これは……なんだろう?
「……電話相手は、今のような気持ちだったんじゃないでしょうか」
そう言いながらポケットの中から鍵を出して見せてしばらく。初めはポカンとしていた1代目が急に、
「えぇ~」
と、肩を落としてしまった。そして、
「も~。なんか、嫌になってきたぁ」
と。
少し調子に乗り過ぎたため、1代目から少し嫌われてしまった。