俺 2
土曜日の8時過ぎ、いつものように自転車にまたがり、古本屋へ行く。
ここで夜の12時まで時間を潰した後、ネットカフェに入るのだ。
ネットカフェでは人の気配が多過ぎて少しも小説が書けないので、オンラインゲームをしている事が多い。
大体店内は寒いので鞄の中には上着を入れているし、店員さんに言って毛布も貸してもらう。それでも寒いので飲み物は塩っ辛いオニオンスープか薄い珈琲。注ぎに行くと他の客がいる。
列を成してまで注いでいるのはアイスクリームと言うのだから、どれだけ暑がりなんだろうかと毎回思う。
毛むくじゃらと1代目を仲良くさせようと2人の家に行かなくなって3週間目に突入した訳だが、仲良くなったと言う話は聞かない。
今日がクリスマスなら、パーティーだと理由をつけて行く事が出来たのに。
来週、新年の挨拶だと理由をつけて家に行ってみようか?いや、姉が来るかも知れないから外出は避けた方が良いか……。
あれこれと考えているうちに古本屋に到着し、目当ての本を探す為にウロウロと歩き回る。
こうして見つけた本をしばらく読んでいると足が疲れてきて、時計を確認すると2時間ほどが経っていた。
そろそろ休憩するか。
一旦古本屋を出て自動販売機に向かう。いつもならこのままベンチに座って休憩する所だが……何をどう見たって毛むくじゃらがいる。
日頃の行動力のなさが災いし“本屋で時間を潰している”と言っただけで本屋の特定をされてしまったようだ。
しかし、話しかけて来ない。
なにこっち見てんだよ、嫌だな……ちょっと早いけどネットカフェに行ってしまおうか?それとも他の場所で時間を潰そうか。
「え~?無視って酷いんちゃうの?」
移動しようと自転車にまたがった所で、結構な音量で呼び止められた。
「怒ってるんかと思って」
「怒ってるんはそっちやろ?」
2人して同じように首を傾げ、しばらく沈黙。
どうやら怒っている訳ではなさそうなので、半居候を中断するに至った経緯を説明する事にした。
「1代目と仲良くなってもらいたいのに、俺がおったらアカンやん。それで行かんようにしてるだけ。別に機嫌悪くもなんともないで」
「あー、それ聞いてイラッときた」
なんで!?
「イラ付くんなら帰れや」
「そぉ~じゃないやろがぁ」
ヌッと伸びてきた手が、指が、俺の頬を摘んでひねる。
「イタイ」
これだけ頬を摘まれていても、普通にイタイと言えるものなんだなぁとか思っていると、
「良かったなぁ、俺が大人で」
とか言い出した。
人の頬をひねる男の何処が大人なのか教えてほしいものだ。
「イタイ」
「今日は3人で喋ろうと思ってな。俺車やし先帰るわな」
やっと手を離してくれた毛むくじゃらは、そう言って手を振ると本当に帰ってしまった。
毛むくじゃらはいつもこうだ。
わざわざこんな所まで来て待っていたくせに、最終的な判断は俺に任せてくる。3人で喋ろうと思った、先に帰る。それはもう俺に来いって言っているのと同じ事だろう。しかし、肝心の「来い」との言葉がない。
考えれば考えるほど、行って良いのか分からなくなってくる。
3人でとは言ったが、その3人は誰の事を言っている?
先に帰ると言ったが、ただ単純に帰るための挨拶だったのかも知れない
悩みに悩んだ結果、俺は自転車を走らせて毛むくじゃらと1代目が住んでいるマンションの前まで来ていた。
さて、どうする?
部屋の中では俺の知らない3人目がいて盛り上がっている最中かも知れない。なのに呼び鈴を鳴らしてしまって良いのだろうか?俺を確認した毛むくじゃらの開口1番が「なにしにきたん?」なら悲し過ぎる。
はっ!
部屋で喋るとは一言も言っていなかったじゃないか!だったら部屋の中では1代目が寝ている可能性もある。それとも毛むくじゃらと1代目と、他1名で場所を変えて飲んでいると言う事だって……いや、1代目はまだ未成年だし、それはないか。
居酒屋ではなく、ファミレスなら可能性はある。
帰って来るのを待とうかな?とりあえず缶ジュース買って、ゆっくり飲んで。飲み終わるまでに帰って来なかったら古本屋に戻ろう。
寒いのに、小さな缶のあったか~いではなく、500mlの炭酸飲料を買って、チビチビと飲み始める。
半分程を飲み終えた頃、俺は部屋の中にいて、毛むくじゃらに「何でチャイム押さへんねん!」と怒られていた。