毛むくじゃら 12
ペルセウス流星群が見たい。
そう思ったので、夕方の4時頃だったか、5時頃だったか、毛むくじゃらに宛ててメールを送った。
「夜空を一緒に見上げよう」
返信があったのは7時過ぎで、
「飯食って、風呂入ってから行くわ」
と。
なので、2時間もすれば来るだろうと思っていたのに、来ない。
何か準備をしている?
望遠鏡とか?
大人しく待つ事更に数時間。
毛むくじゃらがやって来たのは0時頃になってからだった。
1代目は不在で、2人きりのロマン溢れる夜空観賞に……ならなかった。
駐車場側の窓をノックする音がして、急いで外に出たその瞬間、空を見上げなくとも感じた湿度。
ゆっくり見上げると、空の7割が雲に覆われていた。
駐車場では空を見渡している毛むくじゃらがいて、
「何処?」
と、空を見上げたまま聞いてくる。
「カシオペアの斜め下」
答えながら空を見上げるが、雲に覆われている夜空の状況は悪くなっていくばかりだ。駐車場に設置されている外灯が明るいので、余計になにも見えない。
「カシオペアは何処?」
「さぁ……星が見えんから分からん」
だったら暗い場所に行こう。
歩き出した俺達は細い道を歩きながら、とある自動販売機を目指す。
その自動販売機は夜であろうとも電気が消えていて、周囲に外灯もないから真っ暗なのだ。そこならば星の1つや2つ見え……なかった。
夜空の8割は、雲に覆われていたのだ。
「なぁ、晴れてたとしてやで?SIN目ぇ悪いのに見えるん?」
これまでの人生で1回も流れ星を見た事がないので分からないが、一瞬だけ流れる細い光だ。きっと良く分からないだろう。
「見えへんと思う」
「ハハハ。タバコ買って来るわ」
そう言うと角を曲がって行った毛むくじゃら。そこには眩しいばかりに光り輝くタバコの自動販売機がある。
空を見上げて、ペルセウス座だけでも見付けようとしてみるが、空全体が薄い雲に覆われてしまっては透視能力がない限りは何も見えない。
「折角来たのに……」
一緒に流星群見たぞーって言いたかったのにな……。
「タバコ買えたし別にえぇけど、やっぱ雨男やな。」
ここまで来たのに、タバコ1箱で良いのか!?
「コーヒー奢るわ」
「やった」
暗い自動販売機でコーヒーを買い、あてもなくフラフラと歩きながら晴れるのを待つが、薄い雲に覆われた景色に変化はない。
今回は、諦めるしかなさそうだ。だったら、願い事だけでも。
「雲の上では今頃流星群やろ?やったら、願い事言うとこや。はい、願い事」
締め括りにしようと話を振りながら夜道を歩く。
2人分の足音しか聞えない時間が少しだけ流れ、
「願い事かぁーそうやなぁ~」
と、長めに毛むくじゃらが唸る。この後自分も聞かれるかも知れないので、俺は俺で願い事を考えていると、突然、
ボトボトボト。
通り過ぎようとした家の前にあった水道から突然結構な勢いで水が流れ、下に置かれていたバケツに落ちて派手な音をたてた。
ビックリして2人で水道を眺めていると、ザーと流れていた水の勢いは徐々に弱くなり、ピタッ。
止まった。
誰もいないし、俺達が触った訳でもない。それに、その水道にはハンドルが付いていなかった。誰かがいたとしても、水を出す事なんか出来ないだろう。
それなのに、勝手に出て、止まった。
水道の中に溜まっていた水が流れ出ただけ?それにしたって、どんなタイミングだ?
「お盆の時期に、やめて欲しい偶然やな」
同意を求めてみたのだが、無言の毛むくじゃらはスゥと俺から視線を外して夜空を見上げ、少ししてから願い事を口にした。
「もう、怖い思いしませんように……」