毛むくじゃら 11
強制外泊日である土曜日の昼過ぎ、家の前で道路工事が始まった。
ガス管工事があるとは聞いていたが、その騒音はかなり凄まじく、振動も相当なものだった。
せめて騒音だけは回避しようとパソコンを起動させ、ヘッドフォンで音楽を聞いていると、毛むくじゃらから1通のメッセージが届いた。
内容は、
「仕事終わったら迎えに行くから、家におって」
との事。
「分かった」
そう返信すると、さっきまでは気になって仕方なかった工事の音が、全く気にならなくなっていた。
そんな事よりも、何時来るか分からないし、早めに支度をしておこう。
きっと玄関からではなく、駐車場側の窓から来るに違いない。だったら、来た事がちゃんと分かるようにヘッドフォンは取っておこう。
昼過ぎに連絡があるって事は、仕事の終わる時間がいつもより早いのだろうか?だとしたら6時頃?
ソワソワしつつ待っていた訳だが、毛むくじゃらがやって来たのは7時半頃。
6時間近くもソワソワしていた俺は、すでにグッタリである。
駐車場に向かい、運転席の後ろに乗り込むと、
「淀川で花火大会やってるけど、行く?」
とか聞いてきた。
花火大会を話題にすら上げていないのに、分かりきった事を聞いてくるんだな。
「綺麗やろし、どうしよっかな~」
「人も、車も多いやろけどな」
俺が人ごみを嫌っている事を熟知している毛むくじゃらが俺に言わせたい言葉は「俺に構わず花火大会に行け!」とか言う男前な言葉ではなく、
「人多いん嫌やし、行きたくない」
と言う、わがままな子供みたいな言葉なのだ。
「ん。じゃあ、今日と明日の買い物して帰ろか」
走り出した車の中、毛むくじゃらの頭を眺めながら「帰るのはお前で、俺はお邪魔しに行くんやけど?」とか心の中でツッコミを入れてみて、これは言わなくても良い事だろうと声には出さない。
スーパーに立ち寄って適当に食料を買い、毛むくじゃらと1代目の部屋にお邪魔し、2人分の夕食を作る。1代目は花火大会に行ったらしい。
夕食後のまったりとした時間、毛むくじゃらが不意にラインやらツイッターの話を始めた。
しかし、俺達の連絡手段は他のSNSを使っているし、特に困ってはいない。それなのに、何故?
「何で急にツイッター?」
「前にアカウント作られへんとか言うてたやろ?」
そう。1度は登録してみようとして無理だった。何故なら、電話番号が必須だったから。携帯を持っていない俺ではどうしようもなかったのだ。
「今は絶対に電話認証せなアカンねんて」
「電話の所、スキップした?」
ん?スキップ?
「電話認証は必須項目やったで?」
「チェック外した?」
チェック?どこの?
「分からん」
話しながら2人で毛むくじゃらの部屋に入り、パソコン起動。ツイッターと打ち込んで出てきた画面の、アカウント作成をクリック。
「入れてみ」
そう言われたので、IDとPASSを入力するが、電話の追加画面になるだけで、スキップなんて項目は何処にもない。
「やっぱり無理やん」
「何処のんでもえぇから、フリーメール作って」
手を引かれて椅子に座らされたので、フリーメールのアカウントを作成してみた。
「作ったで」
俺の後ろに立った毛むくじゃらは、後ろから手を伸ばしてマウスを操作し、キーボードでツイッターと打ち込む。
「詳細設定オプションの……ホラ、これ」
そこには、電話番号の照合と通知を許可する。と言う項目があって、そのチェックを外さなければならないとの事だった。
「これでいけるん?」
「やってみ」
半信半疑のままアカウント作成画面を進めて行くと、電話番号追加の画面になった。やっぱり駄目じゃないか。と思ったが、そこには「次へ」の文字が出ているではないか。
え?本当にいける?
画面を進めると、興味のある事とか、生年月日とか入力する画面に繋がった。
しかし、問題はまだ残されていた。
「このIDネームは既に使用されています」
くそ……だったらこれで!
「このIDネームは既に使用されています」
こんな名前の人がいるのか!?じゃあ……コレでどうだ!
「このIDネームは既に使用されています」
えぇ~……。