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トリオ 15

 7月30日は土曜日で、土用の丑の日だった。

 スーパーに行くとズラリと並んだウナギが見えたので、夕飯はうな丼にしようと即決したのだが、俺は歳弱な胃の持ち主。ウナギで胃痛になった事はないが、最後に食べたのがもう随分と昔だから、止めておいた方が無難だろう。それに、土用の丑の日には絶対にウナギを食べなければならないと言う決まりはないし、別に“う”の付く食べ物なら何だって良い。

 こうして買い物かごの中に入れたウナギと、うどん。

 毛むくじゃらと1代目の家に行き、2人が帰って来てから夕食の準備に取り掛かる。

 片手鍋でうどんを作りながら、ウナギを切り分けて電子レンジで暖め、炊きたてホカホカのご飯の上にー……あれ?

 ウナギが大きいのか、それとも器が小さいのか、どうやっても1切れ余る。

 1匹ずつではなくて1匹を半分ずつなのだから、器が小さいのだろう。にしてもこの残った1切れをどうしようかな……。

 1切れだけなら、食べても大丈夫だろうか?

 土用の丑だし、寧ろご利益があるかも?良く噛んで食べればいけるかも。その後スグに薬を飲めば大丈夫かも!

 「止めときや?」

 ヒョイと後ろから現れた毛むくじゃらは、残った1切れを眺めている俺に向かって、少し強めの口調で言ってきた。

 「一口も?」

 「うん」

 「1ミリも?」

 「それで食わせて痛くなったら、俺が後悔する」

 何故!?食べて痛くなっても、それは俺の自己責任なんだから、毛むくじゃらには一切関係ない。それなのに、俺が食わせたからだ。とか思うのか?変なの。

 ヒョイ、パクッ! モグモグ。

 食べようかどうか迷っていた1切れを手で掴み上げ、口の中に入れた毛むくじゃらは、俺に綾指を立てて見せてきた。

 どうやら、美味しいらしい。

 夕飯の支度が出来たので1代目を呼びに行き、3人揃って「いただきます」と食べ始めると、

 「後でウナギ代出しますね」

 と、1代目が声を上げた。

 食べている最中に金の話をするんじゃありません!

 「いりません」

 これは俺が勝手に買ってきたんだから、金の請求なんてするつもりもない。

 「悪いです。これからも食事代は払います」

 何故?

 食事を作ってくれと頼まれたのなら、食費などはもらってしかるべきだとは思うが、俺は作りたいだけ。自分では食べられないから、食べてもらいに来てるだけ。それなのに食費までもらってしまうと、俺は極悪人になってしまう。

 「お店じゃないんだから、いりませんよ」

 「材料費ですよ?」

 「分かってますよ?」

 「え?」

 「ん?」

 「ぶっ!」

 黙々と食べていた毛むくじゃらが、急に吹いた。

 なにか面白い事でもあったのだろうか?思い出し笑い?このタイミングで?

 「冷蔵庫にある物使ってえぇから、なるべく買い物行くなや」

 毛むくじゃらと1代目は、自分では料理をしない。だから食材なんか冷蔵庫に入っている訳がない。それなのに冷蔵庫の中にある物で、とか言うんだから、何か適当に色々買うつもりでいるのだろう。

 そんな食材とお金の無駄はするべきではない。

 「分かった。買出し行く時は俺も呼んで」

 「食費は全員で折半な」

 「土日だけですよね?じゃあ……1人4千円?」

 「食費管理は俺やるわ。はい、4千円ずつ出せー」

 こうして俺と1代目から4千円受け取った毛むくじゃら。

 もっと揉めるかと思っていた食費の問題が、以外にもアッサリ解決したと言うのに、1代目が更に声を上げる。

 「今日のウナギ代も出しますから」

 真面目過ぎか!

 本当に、いらない事をしてしまった……なら、お金に変わる何かを1代目に頼もう!

 「今日と明日の“笑わせて”をナシにしてくれるだけで良いです」

 かなり良い条件だと言うのに、中々同意しない1代目。

 そんなに奢られるのが嫌なのか?なにかトラウマでもあるのか?

 「それ、俺と木場さんの、唯一の交流時間ですよ!?」

 唯一ではないから!

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