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トリオ 14

 誰もいない部屋の中、俺は1人電気もつけずにトイレの中にいた。

 時は7時ちょっと前なので、そろそろ1代目が帰ってくる時間だ。

 ガチャガチャン。

 帰ってきた……。

 「木場さん?」

 自転車と靴を隠しておかなかったので、俺が部屋の何処かにいると分かっている筈。前回はリビングにいたが、今回はトイレの中。前回は驚かせようとは一切考えていなかったが、今回はガッツリと驚かせようとしている。

 1代目は俺がまたリビングにいると踏んだのだろう、先に自室に向かって歩き出したようだ。

 そして、トントンと歩く音が丁度トイレの前に来た時、

 ガチャ。

 「わっ!」

 「うわぁ!」

 ふっ、ドッキリ成功。

 笑っている俺に1代目はかなり文句を言ってきたのだが、

 「毛むくじゃらにもしますよ」

 と言うと、途端にニヤニヤし始めた。

 こうして1代目と協力して毛むくじゃらにドッキリを仕掛ける事になった。

 今回の作戦は、下手に作り込まないで単純明快、ドッキリではなくビックリ大作戦!

 「トイレじゃなくて風呂場に隠れますから、1代目は上手く毛むくじゃらを風呂場に誘導して下さい」

 「はい!」

 物凄く短い作戦会議が終わってから少し、そろそろ毛むくじゃらが帰ってきても可笑しくない時間となったので、俺は風呂場に向かった。

 ただ風呂場に立っているだけでは影が見えてしまうのでバレバレである。なので、隠れるのは風呂桶の中。しかも風呂蓋を閉めて完全に隠れておく。

 毛むくじゃらが風呂蓋に手をかけた瞬間「わっ!」と、飛び出すのだ。

 緊張しながら待つ事しばらく、毛むくじゃらが帰ってきた。

 「あれ、SINは?チャリあったけど」

 細かい作戦は立てていないので、風呂場に誘導するまでは1代目のアドリブになる。実はそれも楽しみの1つだったり。

 「コンビニです」

 コンビニ?玄関に靴があるのはどう説明するんだろう?

 「歩いて?」

 自転車があるんだから歩いて行っているに決まってるだろ。じゃなくて、靴にツッコミがない事から、1代目は俺の靴を隠したようだ。

 「走って」

 俺は走ってコンビニに行ったのか、そうかそうか……嘘丸出しじゃないか!

 「フーーーン」

 あーあ、毛むくじゃらが警戒した。多分何処かに俺が隠れていると気が付いた筈。そこへ「風呂場に」なんて誘導されたら「風呂場にいるんだな」と思われるだろう。

 「汗かいて戻って来ると思うので、お風呂入れた方が良いですよね!」

 「そうやなぁ」

 足音が1人分風呂場に向かって近付いてきて、風呂のドアが開く音と「あれ?」と言う声。

 風呂場に入った瞬間「わっ!」だと思ったらしい。それならまだ成功の可能性がある!

 ピッと湯沸かし器の電源が入り、風呂蓋に手がかかった。

 今だ!

 ゴンッ。

 「いたっ」

 蓋が開かずに頭をぶつけ、ビックリして思わず声が出てしまった。

 「ははは、今日のは流石にバレバレ~」

 パッと蓋を取った毛むくじゃらは、勝ち誇ったような笑顔だった。

 風呂桶の中から出てキッチンに立ち、片手鍋で湯を沸かし、そこへ水に漬けて柔らかくしておいたスパゲティーを入れる。

 「あれ?なんか作ってくれんの?」

 着替えてリビングにやってきた毛むくじゃらが、スパゲティーを茹でている片手鍋を覗き込むから、

 「吹きこぼれんように見てて」

 と、冷蔵庫の中から、たらことバター、牛乳を取り出す。

 「見てるんはえぇけど、どうやるん?」

 「こぼれそうになったら弱火にして」

 可笑しな事に、先週までガッチガチに緊張していたのが嘘のように自然体でいられる。夕飯を作っていると言う強みがあるから?それとも……ドッキリをしたから?

 きっと、後者。

 「混ぜんでえぇの?」

 「うん」

 吹きこぼれを心配しなくて良くなったので、安心してたらこの皮むきを始める。

 皮をむいたたらこをボールに入れ、そこにバターと牛乳を少量加えて混ぜ混ぜ。後はスパゲティーが茹で上がるのを待つだけなのだが、予め水分を含ませておいたスパゲティーは、熱湯3分ほどで良い感じの茹で上がりになる。

 ザルがないのでスパゲティーを菜箸で掴んで丼に入れ、湯を捨てた鍋の中に戻し、オリーブオイルを加えて乳化させる。

 混ぜ混ぜ、フリフリ。

 フリフリ、混ぜ混ぜ。

 こうして出来上がったスパゲティーを、たらこソースの入ったボールの中へ入れて絡め、お皿に盛り付ければ完成。

 テーブルに並べた後は素早く鍋を洗い、再び湯を沸かし、キャベツと玉ねぎを切って入れて、コンソメを1つ。一煮立ちしてから仕上げに胡椒少々で、

 「出来上がり」

 美味しいと言って食べてくれる毛むくじゃらと1代目を前に、改まって座る。

 「食べへんの?」

 うん。先に言いたい事があるんだ。

 言い難い事なので少し俯くと、2人も食事の手を止めて沈黙した。

 「悪いんやけど……」

 話し出すと、1代目が急に行儀良くピシッと座り直し、毛むくじゃらも俺の顔を覗き込んでくる。

 言い難いけど、言わなければ。

 「なに?」

 静かに聞かれ、意を決する。

 「たまにでえぇから、こうやって台所貸して欲しい」

 俺は作るのが好きなんだ。だけど、食べる事が出来ないから作れない。だから、

 「俺が作ったのん、食べて欲しい」

 えぇかな?と毛むくじゃらの顔色を伺っていると、

 「なんですかそれ!?」

 1代目が声を上げた。

 駄目、か……。

 「なんつー事を、なんつーテンションで言うん!?もっとえげつない事かと思ったやろ!?」

 「ホンマですよ!」

 光熱費不払いのただの居候が、人の家で勝手に料理を作るって言ってるんだから、充分えげつない話だと思うんだけど……。

 「えぇの?」

 「火事と怪我に気ぃ付けてくれたら、いつでもえぇよ」

 毛むくじゃらの言葉に、1代目も頷いている。って事は、本当に?本気にするけど、大丈夫?後から嘘って言われても取り消し不可にするけど、それでも?

 「ありがと」

 「もぉー。ビックリして損したわ」

 ん?

 ビックリしたのか?

 そうか……ビックリしたんだな。

 フッ、ミッションコンプリート!

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