俺 9
強制外泊である筈の土曜日の夕方。
いつもなら外泊準備を整えたり、ブログを書いたりしている時間に俺はパソコンに向かって、画面を食い入るように眺めていた。
動画を見ている訳でも、絵を描いている訳でも、小説を書いている訳でもなく、調べ物をしていた。
住民票除票?戸籍附票?改正原戸籍?
どれもこれもが始めて目にする文字列で、少々パニックに陥りながらも1つ1つ調べていた。
住民票除票、又は戸籍附票。と書かれてあったので、必要なのはどちらかで良いみたいだ。と分かっても、それを何処に行って手に入れたら良いのかが分からない。
こんな難しい事態になった原因は昼過ぎに、俺と弟に宛てて来た書留の手紙のせいだ。
その手紙には日付が書いてあり、銀行の名前が書いてあり、業務代行業者の名前が書いてあり、ただちに金を支払ってください。と丁寧な文面で書かれてあった。
ただちにと言う事は、一括返金を迫られているのだろう。
全く知らない間に、とんでもない借金を背負わされる事になるのか?そうにはならないよう、今はとりあえず調べて勉強するしかない。
そうこうしている間に帰って来た弟。
手紙を渡さなければ……けど、文面を見た瞬間キレる可能性がある。平和に話を進めなければ。
「おかえり。ややこしい手紙が来てるで」
「は?」
どんな手紙であるのかを伝えつつ手渡し、封を開けるよりも先に俺の手紙を広げて見せる。
「多分コレと同じ内容と思うんやけど、ねーちゃんにも届いてると思う」
「ん?」
2通の手紙を広げて読んだ弟の眉間には皺がよっている。
まずい、機嫌が恐ろしく悪そうだ……いや、負けてなるものか!
「金額同じやろ?やから3人でそれだけ払えって事なんやと思う」
「……そうやな」
3で割った所で、無職の俺にとっては途方もない金額だし、ただちに支払うには現実的ではない金額だ。
「戸籍附票とか改正源戸籍とか、俺では良く分からんから、ねーちゃんにとってきてもらおうと思ってる」
「で?」
で?って、やけに他人事だな。いやいや、今そこをツッコムのは危険だ。
「ねーちゃんの連絡先教えて」
こうして無事に入手した番号で姉に連絡をすると、姉は銀行と直接話し合いをしている最中だった。
「形式上お前らに通知が届いただけやから、なんもせんでええ。で、今手続きとか必要な書類とか色々やってる所。あ、でも印鑑証明は必要になるかもしれんから、それだけ」
印鑑証明?
電話を切り、弟に姉の言葉を伝えて自室に入り、即刻調べた印鑑証明。
印鑑証明をとるには、まず印鑑登録をしなければならないらしい。
あぁ、あのゴチャっとした印鑑の事か。でも俺実印なんて持ってないぞ?って事は、実印を買う所から始めなければならないのか。
で、印鑑を購入し、それを窓口に持って行って……身分証明が必要になるのか。保険証があるから大丈夫……。
「ん?」
写真付きの住民基本台帳カードか、運転免許証か、パスポート……住民基本台帳ってなんだ?運転免許書も、パスポートも持ってないぞ?いやいや、でも身分証明と言えば保険証。書かれていないけど、きっと大丈夫……。
「え?」
注意事項:社員賞や健康保険証では申請できません。
そんな馬鹿な!
じゃあ、住民基本台帳カードの事を調べてみようではないか!
そんな訳で調べてみると、窓口にある申請書と、身分証明書、写真付きにするなら写真を持って行けば良いようだった。しかし、その必要な身分証明の説明には、運転免許書、パスポート。の名前が書かれていた。
それがあるなら苦労せんわ!
俺は、印鑑証明が必要になるまでに運転免許を取得しなければならないのだろうか?いやいや、他にもなにか手はある筈だ!
更に調べてはみたが、1度見たサイトが繰り返し出てくるだけになった。
タスポでは無理なのだろうか……。
そんな事をボンヤリと考えながら、酷使し続けた目を休めるために目を閉じた。そして目を開ける頃、時計の針は思ったよりも進み、23時を差していた。
色々と分からない事はあるものの、1つだけハッキリしたのは、土曜日強制外泊は眠っていると回避出来る。って事だった。