俺 7
姉の家に行く事が決まったのは、1週間も前の事だった。
その時は親父だけが行くと言っていたのだが、翌日には弟も行く事になり、昨日には急遽俺も参加する事になった。
行くか?と聞かれて、どっちでも良いと答えたのだから、無理矢理でも強制でもなんでもない。
行きたくない訳ではなかったし、寧ろ顔を出した方が良いとも思っていたので、そこは問題がなかったのだが、問題があるはアルコール。
俺は禁酒中だ。
次にお酒を飲むのは、自分が漬けた梅酒が出来上がってからと決めていたし、公言もしていた。だから、親父や弟や姉がいくら熱心にお酒を勧めてきても、飲む訳には行かないのである。
夕方6時、親父が帰ってきた。
「お刺身買ってくるわ。今からスーパー行ったら半額やろ」
確かに、この時間から行けば生物やお惣菜は半額になるのだが、お刺身一択とは!
「いってらっしゃーい」
そう送り出そうとした所で、
「お前は何や?チューハイか?」
まだ姉の家に行っていないと言うのに、お勧め1回目。しかし出発前ならば用意していたこの文句で切り抜けられる筈だ!
「電車移動やろ?酔ったらアカンから酒は止めとく」
これは、本当の事だ。
親父が買い物に行き、少ししてから弟帰宅。雨に濡れた為、出発前にお風呂に入りたいと言うので、買い物から帰ってきた親父はお刺身などを一旦冷蔵庫の中に入れ、ビールを1缶プシュッと開けた。
「向こうのスーパーでビール買うから、お前のチューハイもそこで買ったるわ」
電車移動後なら飲んでも大丈夫やろ、と追加で言葉が聞こえてきそうになるが、なんのこれしき。
「買ってくれるんなら、野菜ジュースが良い」
「なんでや?」
「前に買ってくれたんあるやん?アレ、物凄く美味しかったから」
これも、本当の事。
なんか欲しいもんあるか?と言われ、野菜ジュースを頼んだ事があったので、その話を出す事でお酒の話を微妙にはぐらかしてみたのだ。
7時少し前に親父と弟の3人で駅まで歩き、電車移動。
姉の家の最寄り駅に着いた後は、弟を先頭にしてスーパーへ歩き出したのだが、また雨が降り出してきた。
弟と親父はサッと傘をさし、俺は普段あまり傘をささないせいもあったのか、フードを被っただけ。するとどうだろう、全く雨が気にならなくなったではないか。
「この道、渡りたいんやけど」
隣から聞こえて来る声に顔を上げると、真横を歩いていた弟が道路の左右確認をしながら、渡るタイミングを計っていた。
その道路は片側1車線の立派な道路なのに信号機がない。
「ここ、結構車通り激しいんやな」
そう声をかけながら、同じように左右確認。
「今渡れ」
後ろにいる親父からの合図で同時に駆け出す俺達。
バシャバシャ。
あれ?雨結構降ってる?
さっきまでは全然濡れなかったのに?と不思議に思いつつ見上げてみた空にスッと現れる黒い影。視線を下げていくと弟の手。
「あ、傘。ありがと」
慌てて自分の傘を広げるもスーパーの入り口はドンと目の前。広げたばかりの傘をたたんでスーパーに入ると、率先して買い物籠を持った弟が一直線に向かったのはお酒売り場。
「で、何飲むん?」
ズラリと並んだお酒を眺めてみると、近所のスーパーには売っていないお酒が沢山あって、大好きなジントニックまで!濁り酒も!抹茶味の甘酒と言う味の想像が出来ない物まで!
気になる、気になる……。
「子供らも飲めるように、サイダーにしよか」
ソフトドリンクが置かれている冷蔵庫前に移動し、1.5リットルのサイダーを弟の持つかごの中に入れた。
「俺が買うんかい」
「うん。重い?」
「いや、重くはない。余裕!」
「つまみは?」
2人でお菓子売り場に行くと、かごを持った親父がそこに立っていて、安売りをしているポテチの塩味を2袋持っていた。それを見た弟はササッと親父に駆け寄ると、
「なんで2袋とも同じ味!?俺が選ぶ!」
と、熱心にお菓子を選び始めた。そして親父と目が会う。
「お前は飲み物なんか買ったんか?」
十中八九お酒の事を言っているのだろうと理解しておきながら、
「買ったで」
と、サイダーを頭に浮かべつつ返事した。
嘘は付いていない。その上で俺は親父のかごの中に小さくて安い野菜ジュースのパックを入れる。
「なんか買った?」
お菓子を選び終えた弟が、こっちに来るなり声をかけてきた。
十中八九お酒の話しをしていると分かりつつ、俺は野菜ジュースを頭に浮かべながら頷いた。
決して嘘ではない。
さて、これ以上勧められる前に単独行動だ。
俺は1人和菓子売り場をウロウロする。羊羹やわらび餅、三色団子などなど。すると向こうから大股で歩いてくる親父と、後ろからやって来る弟。
何故ここで終結だ!?
「欲しいんか?」
「食べるん?」
見ていただけですけど!?