1代目 9
喧嘩をしている訳ではない。むしろ仲直りは出来た筈だと言うのに、毛むくじゃらに対してなんとなく緊張してしまい、以前のように楽しく喋る事が出来なくなっている。
なので、その分1代目に向けて口数が増えていた。
ここ何週間かで随分と仲良くなったと思う。
まだ緊張してるのか?と自分でもビックリしていたのもついこの間までの話しで、やっと1代目に対して緊張せずに喋られるようになってきたのだ。
「木場さん、木場さん」
ソファーに寝転んだだけで近付いてきた1代目は、何も言わずとも床の上に正座して座り、俺の顔を真正面から見てくる。
「笑ったら駄目ですよ」
俺も真正面から1代目の目を見返し、かなり至近距離で注意事項を述べた。
「はい!」
とても元気が宜しい。
「絶対に、絶対に笑っては駄目ですよ」
ゆっくりと、もう1度言うと、コクコクと頷きながら両手で口を押さえるから、それは反則だとばかりに両手を掴んで口から剥がす。
「良いですね?」
「は、はい……」
「絶対に……笑っては駄目ですよ」
この時点で既に笑いそうになっている1代目。今回も簡単そうだ。
「笑ってしまうと、歯が抜け落ち……」
「ぶぅー!」
霧状に飛んでくる何か。
至近距離で笑わせるのは、危険だった……。
「ちょっ、これっ、酷いんちゃうの!?」
パッと離れて文句をつけると、1代目はタオルでゴシゴシと俺の顔を拭いてきた。
「アハハハハ、歯が抜けっ、あはははは」
大笑いしながら。