トリオ 13
8時少し過ぎに毛むくじゃらと1代目の部屋の呼び鈴を鳴らすと、毛むくじゃらが出迎えてくれた。
「最近来るん遅ない?」
最近って、たったの2回目で注意を受けるとは思ってなかった。
「うん。ちょっと距離開けたろか思って」
もう少し穏やかに話し出そうと思っていたのに、俺は玄関に立ったまま、靴も脱がずに、お邪魔しますと言うよりも先に言っていた。
毛むくじゃらの反応によっては、逃げ帰れるように。
「距離?」
通じなかった。
そりゃそうか、急に言われてもパッとこないだろう。
「毛むくじゃらと、1代目から離れようかと思って」
「ふーん。なんで?」
意外とあっさりした返答だったので、俺は靴を脱いでリビングのソファーに直行した。
ソファーには1代目も座っていて、きっと俺達の会話が聞こえていたんだろう、顔を上げてチラチラとこっちを見てくる。
「2週間前の話蒸し返すけど、えぇかな?」
俺が話し合いをするつもりであると感じ取ったのだろう、毛むくじゃらは1代目を真ん中にして端に座った。
「えぇよ。なに?」
表情からは怒っているのかどうかは分からないが、口調は普段通りなので、話し始める事に。
「……存在意味ないって言われてから、結構考えてん」
離れた方が良いんじゃないか、と……。
「え?なんの話ですか?」
話し合いの前に、1代目への説明をしよう。
そう意見の合った俺と毛むくじゃらは、2週間前に旧母親に呼び出された所からの説明をした。
挨拶をして、スグに別れて、車の中でした話も。とは言っても、俺が毛むくじゃらにぶちまけた親父達の話は内緒にしてくれた。
そして、問題の、
「毛むくじゃらにとって、俺の存在は意味がない」
俺自身ですら自分に価値を見出せないでいるのに、他人にそれを求めている時点で何か可笑しい。可笑しいけど、面と向かって言われたら嫌だったんだ。
「ちゃうちゃう!家の事をSINがする必要ないやろーって事やからな?」
それは分かってる。けど、同じ事だ。
「意味がないって思ってる事に違いないやん」
それが毛むくじゃらの本音だと思った。
「なんで捕らえ方そんなん!?1代目はどう思うよ」
コラ、1代目に逃げるなよ!
確かに、中立な立場の人間から意見を聞く事は大事かも知れない。でも、それを年下の子にさせるのは少々酷だと思……。
1代目は、困ったように俺達を交互にチラチラと見ている。ここで「どっちの言う事が正しい?」と尋ねれば、1代目は今世紀最大の困り顔を見せてくれる事だろう。
分かっている、今は茶化せる空気ではない事くらい。
けど、こんなチャンスは滅多にないぞ?
でも、それはただの年下イジメだ。
しかし、今世紀最大の困り顔。
されども、こんな洒落にもならないタイミング。
俺は葛藤の末、自分の好奇心に勝利し1代目の笑顔を守った。