トリオ 12
夜の8時過ぎ、俺はいつもよりも少し遅めの時間に毛むくじゃらと1代目の部屋の呼び鈴を押していた。
はいはい。と出て来たのは1代目で、
「今日は遅かったですね」
と、無邪気な笑顔を向けてくる。
「家を出る時間が遅れたんです。お邪魔します」
遅くなった理由を告げてリビングに入ると、そこには毛むくじゃらもいて、手を上げて挨拶してきたから、
パシン。
ハイタッチした。
ここは軽く手を上げ返した方が自然だっただろうか?
いや、意識したら駄目だ。何も考えずに過ごす事が今まで通りに過ごせる秘訣。
極度の緊張状態のままソファーに座り、ガチガチに固まった体を誤魔化す為にクッションを抱いて寝転ぶ。
「え?寝るんですか?」
この時間に来ていきなり寝転ぶのは不自然だったか!?誤魔化さなければ!それとも眠いと言う事に?いやいや、こんな状態で「笑わせて」は無理だ。
「急いで来たので、疲れただけです」
急いでもいないし、疲れてもいないのに、よくもまぁこんな嘘が咄嗟に出たもんだ。しかも息すら上がってないんだから、誰が聞いたって嘘丸出し。
よし、即急にこの状況に慣れよう。
起き上がってソファーに座り直し、毛むくじゃらと1代目の顔を交互に眺めると、2人も俺に注目していて、妙な時間が流れ始めた。
こんなにも緊張しているのは、1週間前に言われた言葉がまだ気になってしまっているからだ。
毛むくじゃらは、気に食わない人間だろうとも「助けて」と言われれば助けるような優し過ぎる人間だ。だから俺を友達だと言ってくれている。
居候させてくれているのも「助けて」と俺が言ったから。
イタズラやドッキリを仕掛けまくっている俺だ、大事に思われている筈がない。
そんなネガティブ思考満載な1週間を過ごしながらも、こうして泊まりに来ている理由は、他に行く所がないから。それに、急に音信不通にすると毛むくじゃらが怒るから。
1週間、どうすべきか考えて出た答え。
「なに?どした?」
急に音信不通になるのが駄目なのだから、徐々に距離を開けていこう。と。
「いや。先週の礼言うのん忘れてたなーって」
まずは訪問時間を遅くして、ここに留まる時間を短くする所から。
「そうやっけ?」
1年後には居候生活卒業する位の、物凄くゆっくりとしたペースで!
「うん。ありがと」
さぁて、ゆっくり始めるとしよう。
「え?なんか悪いモン食った?明日台風来るわ」
普段の俺って、相当酷いんだな……。