1代目 7
ついに、この時がやってきてしまった。
自転車を降りて、階段を上がる間にギュッと握り締めていた合鍵。それを使う時が、きてしまった。
呼び鈴を押しても返答がないのだ。
念のためにもう1度呼び鈴を押して待ってみても、玄関の扉は1ミリも動かない。
厳密に言うならば今日合鍵を使えば2回目となるのだが、前回はエイプリルフールという大きな理由があった。しかし、今回はなんの理由もない。
緊張してきた。
本当に入っても良いのだろうか?いや、そのために渡されたんだろうけど、本当に開けてしまって良いのだろうか?
これなら忘れ物をしたと言う事にして、1回家まで帰って、ゆっくりとここに戻ってきた方が…いやいや、でも!
ピンポーン♪
無反応。
コンコン。
無反応。
ピィィィィィン、ポォーン♪
無反応。
ピポピポピンポーン♪
無反応。
これは居留守じゃなくて、本当に誰もいない感じだ!
本当に、本当に開けるけど、本当に良い?
いや、だから合鍵をくれている時点で「入っても良い」と言われているようなものだし、別に悪い事をする訳でもないし、大丈夫…かな?
ガチャ。
鍵が開いた!
キィィィ…。
扉が開いた!
「お邪魔しまーす……」
真っ暗な部屋の中には、誰の気配もない。
リビングに向かい、ソファーに座って少し窓を開けて空なんか見上げながら時間を潰していると、なんだか眠たくなってきた。
今のうちに寝てしまえば、1代目からの「笑わせて」攻撃を受けずにすむ。
ソファーに横になり、ウトウトしていると残念な事にガチャンと鍵の開く音がした。そして聞こえて来る1代目のかすかな声。
「木場さん?」
玄関から聞こえる微かな声は、俺を呼んでいる訳ではなさそうな疑問形だ。
自転車と靴があるんだから来ている事は分かっている筈なのに、どうしてそんなに自信なさげなんだ?
ソファーから起き上がり、玄関に行くためにリビングを移動していると、
パチン。
リビングの電気がついた。そして聞こえる1代目の、
「うわぁぁぁ!」
絶叫。