毛むくじゃら 6
ついに、来た。
少し前までは、そろそろ来たかな?とかだったのに、ついに来たのだ!
ズルルルルル。
「ゴホッゲホッ」
ヒノキ花粉。
「ヘップチ!」
ズルルルルル。
目と、耳の奥が痒い。くしゃみと、咳も出る。
許すまじヒノキ花粉。
「大丈夫か?」
ソファーに座る俺に話しかけてきたのは毛むくじゃら。
その顔、右頬は良く見ると腫れている。
赤味はないし、押さえても痛くないらしいが、4日も続いている腫れは異常だと思う。
鼻炎?副鼻腔炎?どちらにしたって1度耳鼻科に連れて行かなければならない。
よし、説得を始めよう。
「病院行けや」
言ってやった。
しかし毛むくじゃらは、
「大丈夫やって、昨日より腫れ引いてるし」
とか反論してきた。
腫れているものは腫れているし、重大なのは腫れている方の目だけが充血している事だ。
昔から毛むくじゃらは疲れてくると右目だけ充血していた。それも全て鼻炎からきているものだとしたら?
早い所検査してもらった方が良い。
「蓄膿やったら、膿で視力低下するんやで?」
説得を続ける。
「昔から右目だけ充血してたんは、初期症状やったんかも知れんやん」
更に続ける。
「重症化する前にさっさと行けや」
言い切ったのに、毛むくじゃらは笑顔で俺を見ているだけだ。まさか耳まで遠くなったのか!?
「月曜、絶対行きや!」
少し大きめに言うと、パッと顔の前に出された鏡が1枚。そこには機嫌が悪そうな俺が映っていて、急に自分の顔を見る事になった俺はサッと鏡から目を逸らして黙り込んでしまった。
「真剣な顔、久しぶりやからさ」
なにそれ。
「茶化すなや、こっちは真剣に喋ってんのに」
「これ以上酷なったら行くわ」
ニヤニヤしている毛むくじゃらに、何も言えなくなる。何故なら「これ以上酷くなったら行く」と言うのは、空咳が出ていた頃「病院に行け」と怒っていた毛むくじゃらに対して俺が言い放った言葉なのだから。
「これ、言われた方最悪やな」
「やろ」
毛むくじゃらは笑っていた。