毛むくじゃら 5
日曜日の朝、俺と毛むくじゃらは布団から出ずに寝転んだまま喋っていた。
内容は「霊にも寿命がある。それは400年から500年である」と言う事。
なんでもオカルト界では有名な話らしいのだが、そう言う事に疎い俺には目から鱗の新情報!寝起きでそれを思い出した俺は、早速毛むくじゃらに教えているのだ。
「戦国時代の武将、そろそろおらんくなるんやで」
俺が生まれた時には既にいなかったとは言え、戦国時代を生きた霊が寿命を迎える。それは文化財が消失してしまうのと同じ位大変な事だと思った。
「秀吉とかー信長?」
信長は安土城だから滋賀県か、流石にここからじゃ遠い。それに、俺が言いたいのは、
「大阪城で花見しようや」
これである。
「急やな!近所の公園でえぇやん」
近所の公園なんて、スーパーに行く時にちょっと遠回りするだけで行ける。そんな近場で軽く花を見上げるんじゃなくて、ガッツリとした花見がしたい。
「400年前の兵と見る桜!」
大阪城周辺には結構心霊スポットがあるらしいので、まさに、ロマン!
「肝試し?」
そんな恐ろしい感じじゃなくて、社会見学?歴史上の有名人に会えるかも知れない、とか言う不思議体験巡り。
「だって、もう今しか会われへんねんで?」
徐々に心霊現象とかもなくなって、何かが体験出来るのなら今しかない。もし、写真を撮って何かが写り込んでいたら、それは物凄い記念写真になると思う。
「じゃあーお化け屋敷入れるんやな?」
え?何故ここでお化け屋敷が出てくるんだよ。
「無理」
恐怖系は本当に勘弁して欲しい。
「作りもんでアカンのに、なんで本物に会おうとしてん」
それはそうなんだけど、400年の歴史を感じられるかも知れないんだから行きたい。特に歴史に詳しい訳ではないけど、折角大阪城という場所が地元にあるんだから行きたい。しかも、大阪城の桜は物凄く綺麗なんだ!
ムクリと起き上がった毛むくじゃらが着替えを始めたので、俺も起き上がり、
「花見、行こ!」
との捨て台詞を吐いてトイレに向かった。
今日はこれ以上言っても無駄だろう。とか、花見の時期までにはまだ時間があるから、後日改めて言おう。とか、そんな事を考えながら用を足し、部屋に戻ると毛むくじゃらがジッと俺を見てきた。
なんだろう?もしかして怒ってる?花見に嫌な思い出でも?
「トイレ行く時は“行く”って言うてくれへんかな」
はい?
「なんで?」
「花見行こうって勢いよく言うから、そこにおると思うやん?俺、結構長い事喋ったで?黙ってるから真剣に聞いてるんやな~って振り返ったらおらんし!」
毛むくじゃらは朝から恥ずかしい思いをしてしまったらしいが、俺は朝から大笑いする事になったのでした。