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トリオ 9

 お年玉袋から出された鍵を目の前に置かれた。

 毛むくじゃらは黙り込み、ジッと俺を見てくる。それを怒っていると勘違いをした1代目は、見ているのが可哀想になる程シュンとしてしまっていた。

 多分、合鍵の話を始めに言い出したのが1代目だったのだろう。

 受け取る事は自分の意に反しているが、こうして頑なに善意を拒否し続ける事も失礼だと思えた。しかも、年下の青年を攻めるようなこの空気。

 何をどうするのが正解なのかが分からないから、黙ったまま何か考え込んでいる毛むくじゃらの言葉を待つしかない。

 いや、ここで沈黙を続けたら駄目なんだ。とりあえず怒っていないし喧嘩している訳でもないと1代目に教えてあげなければ。

 そもそも俺達の目付きは悪いんだから、無表情で向き合っているだけで険悪なムードに見えてしまうと言う事を忘れていた。

 「やい毛むくじゃら!」

 そう声をかけると、

 「ん?」

 と、いつもと変わらない様子で返事をする毛むくじゃら。このちょっとした会話だけで俺達の機嫌が悪くないと感じ取ったのだろう、1代目は顔を上げた。

 「受け取る理由がありません」

 そこを空かさず自分の気持ちを、もう1度ぶつけた。

 「俺は、心配なので持っていて欲しいです。外で待たれているのが嫌なんで」

 今までは受け取って欲しいとしか言って来なかった1代目が、初めて具体的な理由を言ってきた。しかし、外で待つ事の何処がどう嫌なのかは分からないし、何が心配なのかも分からない。

 「それなら、別の場所で時間を潰していれば良いだけですよね?」

 鍵を受け取る以外に解決策があるじゃないか。

 「お前なぁ」

 フゥ、と大袈裟に大きな溜息を吐く毛むくじゃらは、テーブルの上に置いた鍵を手に持つと、俺の手を強引に掴み、かなり無理矢理に鍵を握らせてきた。その上からギュウギュウと握り締めてくるから、鍵が手に食い込んで痛い。

 「痛いんやけど」

 「じゃあ、受け取る?」

 「だから受け取る理由が……いててててててて」

 「受け取る?」

 「え?これ受け取るまで続くん?」

 「やで。で、受け取る?」

 「強引過ぎ!ほんでめっさ痛いから!たたたたた、痛いって言うてんねん!」

 あまりの力技に、1代目は口元を押さえて笑っていた。

 グッグッと小刻みに握り締めてくる毛むくじゃらはまた、

 「受け取る?」

 と、聞いてくる。

 これは本当に受け取るまで続きそうだ。

 痛いから、止めて欲しいから、受け取る。それは受け取る理由になる……のか?

 ここでまた拒否し続けていると、1代目がまた深刻な表情になってしまうのだろう。だったら、笑っている今のうちに受け取るのが良い……のか?

 毛むくじゃらと1代目は厚意で合鍵を俺にくれようとしてくれている。それを拒み続けていたら、こうしてここに来る事も気まずくなってしまうだろう。それは心底嫌だ……これは受け取る理由になる?

 「…ありがとう。ホンマに貰うで?」

 「始めっから受け取れって言うてるやん。この頑固者」

 そう言って笑う毛むくじゃらに釣られたのか、1代目はますます笑った。

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