俺 4
先週、毛むくじゃらと1代目による合鍵攻撃を避け「来週は9時に行く」と言った。
午後7時過ぎ、いつもなら慌しく外出準備に取り掛かっている時間になっても、俺は静寂に包まれた自宅のダイニングでノンビリとお茶を飲んでいる。
溜息も、少々激しい物音も、今は聞こえて来ない。
その理由は、3連休となった親父が新母親と2人で旅行に出かけたから。
久しぶりにゆっくりとダイニングの椅子に座っている俺と、自室でゲームをしている弟に、外泊しなければならない理由は何処にもない。
食器や砂糖、塩を置いている場所が新母親の使いやすいように置き換えられ、俺には少し使いにくくなった台所。
俺が自宅警備兵をしていた頃の面影がないダイニング。
恐ろしく落ち着かない。
「ハァ~!」
いつも聞こえてくる溜息の真似をして、結構な労力を使う事を知って少し笑えた。
こう言う時、少しでも酔えれば楽しいのだろうか?と、チューハイに手を伸ばして、脳裏にチラリと浮かぶ毛むくじゃらの顔。
毛むくじゃらは、酒を飲み過ぎる俺の肝臓を本気で心配し、チューハイは1日に1本まで、日本酒はコップに1杯までと、結構細かく勝手に決めていて、2本目を飲もうとすると不機嫌に、3本目を飲もうとすると怒ってくる。
自分の家なのだから、いくら飲んだって怒られない。外泊しなくても良いんだし、今日は酔うまで飲んでしまおう。
8時を少し過ぎた頃、俺は弟の部屋に向かった。
「9時に行くって言ったし、行って来る」
と、説明する為に。