トリオ 8
作ったリンゴジャムを手土産に向かった毛むくじゃら達の家。
道中、ゆっくりと自転車をこいでいたので着く頃は7時半を過ぎていた。そのお陰で1代目は部屋にいて、やって来た俺を快く迎え入れてくれた。
「今日はジャムを作ったので、少し持ってきました」
とか言いながら勝手に冷蔵庫を開けると、冷蔵庫の中にはドンとコンビニ弁当が入っていた。
「食パン焼こうかな……」
弁当を食べる前に食パン!?
どうやら物凄くお腹がすいているようだ。それなのに食パン?全員揃わないと弁当を食べたら駄目って決まりでも出来ているのだろうか?
お腹が空いているのに、我慢をする事はないと思う!それに、今の時刻は7時半を過ぎているんだから、とっくに夕飯の時間だ。
弁当の入った袋を冷蔵庫から取り出し、テーブルの上に置くと、
「どれが良いですか?」
と、1代目が鮭と焼肉と、ハンバーグの3種類の弁当を並べる。
どれが良いですか?と聞いておきながら、誰が誰のものなのかこうもハッキリと分かる弁当選びをするとは。
「焼肉、もらいますね」
声をかけながらハンバーグ弁当を冷蔵庫の中に入れ、焼肉と鮭をレンジで温める。
チン♪
先に鮭を温めたと言うのに、1代目は焼肉弁当の温めが終わるまで蓋すら開けずに待っていて、俺に箸と、お年玉袋のようなものを差し出してきた。
なんだろう?
受け取って、何の気なしに開けて見ると、中には1つの鍵が入っていた。
「これでもう自動販売機の間に立たなくて良いですよ」
え?
もしやこれは合鍵!?
いやいや、こんな大事な物を受け取るなんて非常識にも程がある!
鍵を袋の中に戻してテーブルの上に置き、黙り込む事少し。リビングに鍵を開ける音が響いた。
リビングにやって来た毛むくじゃらは、黙り込んで座っている俺達を不思議そうに眺め、テーブルの上に置かれたお年玉袋を手に取ると、中身の確認もせず、誰の物かも問わず、スッと俺の前に差し出した。
「持っとき」
合鍵の事は2人で相談して俺に渡そうと決めたようだ。しかし、受け取れないので押し返した。
「受け取ってください。仕事で遅くなる時だってあるんですから」
それは、確かにそうかも知れないけど、どこかで時間を潰すとか、今までのように自動販売機の横にいるとか、いくらでも待つ手段はある。
「イザって時の為に。な?持っとけ」
イザってなんだ。
良く考えて欲しい。こんな大事な物を、ただの居候に渡そうとしている行動は誰が見たって可笑しい。
それなのに。
この2人の行動が軽率で変だと言うのに、受け取らない俺が間違っているかのような雰囲気を醸し出して来るんだ。
だからって押しに負けて良いのか?
いや、鍵を持てるのはこの部屋の住人になった時。今はまだ他人なんだから受け取るのはやっぱり可笑しい。
「来週からは9時頃に来ます」
2人は溜息を吐きながら顔を見合わせた。