1代目 5
半居候は、まず7時頃に毛むくじゃらと1代目の家に行く所から始まる。
行くと大体1代目がいるのだが、たまに誰もいない時があり、そんな時はマンション横に設置されている自動販売機でジュースを買って、飲みながらボンヤリと帰りを待つ。
そんな時、毎回思うのは“来週はもう少し遅い時間に来よう”である。
半居候を始めた頃は6時頃に行っていたのだから、その頃からみると1時間ほど遅くなっている。
駐輪場に自転車を置き、自動販売機横でボンヤリ。
小説のネタなどを考えているのだから頭の中は忙しなく動いているのだが、体が動いていないので景色と一体化でもしているのだろう、通り過ぎていく人は勿論、目の前を通り過ぎて行く1代目すら俺には気が付かない。
もしこれが毛むくじゃらならば、後ろからソッと近付いて「わっ!」としてやる所だが、1代目にそれは可哀想なので、黙ったままその場に留まる。
タンタンタン。
階段を上がって行く足音を聞き、5分ほど経ってから部屋に向かってチャイムを押す。これがこれまでの流れだった。
しかし、今回は違っていた。
俺に気が付かずに目の前を通り過ぎて行く1代目、しかし階段を上がって行く足音が聞こえてこない。
ポストの中を確認しているのだろうか?と、それでもその場から動かずにいると、
タッタッタ。
走っている足音が近付いて来て、俺の前を1代目が走り去っていった。
何か忘れ物でもしたのだろうか?と背中を見送り、ジュースを飲み干す。
しばらく待っても1代目が戻ってこないので、2本目のジュースを買おうか迷う。喉が渇いている訳ではない。何か手に持っていないと不審者扱いされるのではないかと……まぁ、誰も俺には気が付かないのだが。
タッタッタ。
遠くから足音が近付いてきて、サァ、と前を走り去る1代目。
何をしているのだろう?ジョギング?だったらジャージかなにかに着替えてからにすれば良いのに。
タンタンタン。
階段を上がって行く足音がしてから数秒で降りて来る足音。
本当に何をしているんだろう?
流石に気になったので自動販売機から離れて階段の方に向かって歩き出すと、駐輪場に停めている俺の自転車の所に1代目が立っていた。
後ろから近付いているので、今喋りかけると高確率で驚かせてしまう。
そう分かっていながら、俺は自分の欲求に勝てなかった。
「どうしたんですか?」
少し大きめに声を出した。
「ビッ!……クリしたぁ~」
何故だか物凄い達成感……じゃなくて。
「どうしたんです?」
聞くと、自転車があるのに俺がいないので探しに行っていたらしい。俺の目の前を3回も通り過ぎておきながら、だ。
「何処にいたんですか?」
本当に気が付いていなかったらしいので、俺は1代目を自動販売機まで誘導し、さっきまで立っていた位置に立って見せた。
「ズットここにいましたよ」
と、言いながら。
「分かる訳ないじゃないですか!せめて自動販売機の前に立っててくださいよ!」
1代目に怒られてしまったのだが、確かにそうかも知れないと納得してしまったので言い返せない。
俺は、外灯もない薄暗い場所に置かれた2台の自動販売機の間、1m程の所に立っていたのだから。