1代目 4
俺の家は家族揃って飯を食うと言う習慣がない。その影響なのか自分専用の食器と言う物がない。
茶碗も、箸も、適当に手に取ったものを使っている。
しかし、毛むくじゃらと1代目は自分専用の食器を使っているので、俺は紙コップと割り箸持参で行っていた。
こうしていつもと同じように紙コップと割り箸を鞄に入れてやって来た毛むくじゃらと1代目の家。
ピンポーン♪
「はいはい、は~い」
やたらご機嫌な1代目により招き入れられ、リビングのソファーに座ると、いつもならゲームをするか、漫画を読むかしている1代目が、ニコニコしながら俺の顔を見てきた。
今日は何か特別な日だったか?
色々考えるが、思い当たる事は何もない。
もしかしたら髪形を変えたから気付いてくれ。とか言う主張か?
けど、変わったようにも見えない。
「木場さん、喉渇きませんか?」
なにか、イタズラでも仕掛けているのだろうか?麦茶を取ろうと冷蔵庫を開けた瞬間何かが飛び出してくるとか、麦茶自体に何かとんでもない物が混じっているとか…。
それにしても、そんなに笑っていたんじゃあ「何かある」ってバレバレなんだけど…いや、折角楽しそうにしているんだから引っかかろうではないか!その上で無反応、これでいこう。
「そうですね」
立ち上がり、冷蔵庫の方へ歩いて開ける。
ガランとしている冷蔵庫の中から麦茶ポットを出してパタンと閉めるが、冷蔵庫自体には何も細工はなかった。
なら、味か?
恐ろしく不味いと思って飲めば何が来たって大丈夫な筈!
ゴクゴク。
可笑しい、普通だ。
見落としていただけで、実は何か可笑しな所があったのか?だとしたら地味過ぎる。
何処だ?何処が可笑しい?冷蔵庫の中はガランとしていただけだし、麦茶の味も普通。何か混ぜたが少量過ぎて分からなくなっているとか?
ゴクゴク。
確かめるようにジックリと飲んでみるが、何かが混ざっている感じはない。
そうしてる間に1代目はソファーから立ち上がり食器棚の方へ、そこでコップを2個手にして戻ってきた。
1個は1代目のコップで、もう1個は?
「次からコレで飲んでください」
コトンと目の前に置かれたコップと眩しい笑顔の1代目。
無反応でいる事は、出来なかった。