トリオ 6
バレンタイン当日。
小春日和となった爽やかな午後、リビングでコーヒーを飲む3人。
何故誰もデートに出かけたりしないのだろう?
簡単な事、誰もその相手がいないのだ。
それでも1代目は8個ものチョコをもらえているし、毛むくじゃらは小さいとは言え3個もらえているのだからモテテいない訳ではないのだろう。と思う……。
「そう言えば、歩いて来たんっけ?」
3個のチョコをアッと言う間に完食した毛むくじゃらは、コーヒーで口直しをした後、知っているくせにいちいちそう聞いてきた。
目論んでいる事は分かるが、絶対に抗ってやろうと思った俺は、
「昨日雨降ってたし」
と、答えた。
「歩きしんどくない?」
立て続けに来る質問にも。
「風邪は治ったで」
と、答える。
ふーん、と返してきた毛むくじゃらは、また何か言葉を探すように黙り込む。
そんな間に1代目は1箱のチョコを完食し、独り言のように小さく「甘い」と言いつつも2箱目に手を伸ばすもんだから、
「一気に食べたら気分が悪くなりますよ」
と、1代目の手を止めた。
「月曜日に味の感想聞かれるかも知れないので……」
真面目か!
しかし、その気持ちは分からないでもない。
そう思って残りの7個のチョコを見ると、手作りと思われるカップチョコが入ったクリアパックと、クッキーの入った少し大きめのクリアパックがあった。後の5つは市販のチョコ。
「手作りのだけ食べれば良いと思います」
それでも、結構な量ではあるが。
クッキーを食べ始めた1代目に紅茶をいれていると、毛むくじゃらが再び何気ない感じで話しかけてきた。
「靴は濡れてへん?」
しかし、質問内容がイマイチだと自分で思ったのか、返事を聞く前には次の質問を考え始めている。
じゃあ、答えなくて良いか。
ソファーに戻り、またノンビリと時間を過ごしていると、毛むくじゃらからの溜息なんかが聞こえて来る。
俺から言わせたいらしいが、まだ言わない。
ニヤリと笑いながら毛むくじゃらを見ると目が合って、軽く笑顔を返された。
もうちょっとは遊べるかと思ったのに……。
「降参?」
聞くと1代目がハテ?と首を傾げ、毛むくじゃらは両手を軽く挙げて降参ポーズを取った。
「え?何かあったんですか?」
俺達の些細な遊びに1代目は気が付いていなかったらしいのだが、説明するような事でもないので首を振り、
「じゃあ、帰りは送ってもらおっかな」
と、毛むくじゃらが俺に言わせたかった言葉を声に出した。