トリオ 3
毛むくじゃらも1代目もとっくに寝ている時間、俺はまだ眠れずにいた。
緊張して眠れないと言う訳では決してない。
夕方にした昼寝と、普段この時間は完全に起きている時間である事が重なり、布団に入って30分経っても一向に睡魔がやって来なかったのだ。
布団から起き上がり、隣のベッドで眠る毛むくじゃらを起こさないようにとリビングへ。
リビングにはテーブルセットの他にソファーがあるのだが、そこに1代目がいた。
どうやら眠れないらしい。
明日は日曜日だが、このまま起きていると生活リズムが狂ってしまう。そうなれば月曜日が辛くなるだけだ。
寝かせねば!
とりあえず、こう言う時の王道と言えば、
「ホットミルクか、ホットココア、どっちが良いですか?」
とんでもないアルコール度数のお酒を一気飲み!と言う手もあるにはあるが、危険な上に1代目は未成年。個人的に飲んでいる分には口出しはしないが、俺から勧める事があってはならない。
「木場さんはどっち飲むんです?」
え?俺は、その、アルコールを……。
「ホットミルクにします」
ハチミツを少量入れて、電子レンジでチン♪アッと言う間に出来上がり。それを乾杯と2人で飲み始める。
特に会話もなく、時計の音が響くリビングに足音が近付いてくると、ガチャ。ドアが開いた。
入って来たのは当然毛むくじゃらだ。
さっきの電子レンジの音で起こしてしまったらしい。
「何してんの?」
フワ~っと大欠伸をしながらソファーに座る俺の足元にドカリと座った毛むくじゃらは、そのままテーブルに伏せてしまった。
「寝るなら部屋戻りぃや」
と声をかけながら肩を揺らすと、顔だけコッチに向け、
「何飲んでるん?」
人の話を聞け!
「寝れんからホットミルク飲んでんの。寝れそうなら部屋戻りや」
「んー、もうちょっとで目ぇ醒めそう」
醒めてどうする!
「折角なんで、ちょっと喋ります?」
笑顔で1代目が提案してきたので、親睦会を始める事になった。
流石に名前やら年齢などは知っているし、どうして2人がシェアする事になったのか、何故俺だけシェアする事が出来なかったのかと、そんな事はもう知っていたので、お互いに知らなさそうな事を1つずつ発表していこうと、そんな流れになった。
1番に発表したのは親睦会の開催を提案した1代目で、恐ろしい事を軽く言ってきた。なんと、1代目はバイトをしていた頃、1杯200円で提供していたジュースをちょいちょいコッソリと飲んでいたらしい。
「はい。次、木場さん」
と話を振られたが、何を喋れば良いのか分からない。
言っていない事が多過ぎるのが原因なのか、言えるような事がないのが原因か。
俺は未だに強制外泊の理由をちゃんと説明していない。だったらそれにする?いやいや、自分の事ではなく親父達の事を言うのは違う気がする。しかしこうして半居候させてもらっている身、その原因となった事を説明しないのも可笑しい。
さっきの1代目のように、軽く説明しよう。
「土曜の強制外泊は、新婚夫婦に気を使うって言うか……そんな感じで始まってん」
一気にサラッと説明すると「知ってたわ!」とか言われた。
なんだ、知ってたのか……って、何で?言ったっけ?いや、それよりも大変だ。知らない事を言えと催促されている。
「知らなさそうな事やで」
と、毛むくじゃらはルール説明を繰り返す。
絶対に知らないだろう事で、笑い話にも出来る事。
心当たりは1つしか思いつかなかった。
「甥と姪は、親父の事をオッチャンって呼んで、弟の事はオジサンって呼んで、あの人の事(新母親)をオバサンって呼ぶねんけど、俺の事はなんて呼ぶと思う?」
質問すると、2人はしばらく考え込み、それぞれ間違った言葉を述べた。
外すと言う事は確実にコレは「知らない話」になったのだろうが、2人の目は完全に冴えてしまっていた。