かくれんぼ
もういいかいとそんな声がする中、僕は駆け出したんだ。
クラスは混沌。
彼の周りに人がいて、僕の周りは人居らず。
彼は僕が嫌いみたいで、彼の周りも僕が嫌い。
伏せても笑われ、話すと笑われ、笑うとさらに笑われた。
何をやっても周りは笑い、僕は卑しい奴らしい。
突然、遊びに誘われた。
行きたくないが、空気がそれを許さない。
後ろ指を指され、腕を引かれて公園へと行くと彼は遊具の上へと座ってた。
何をやるのか聞いてみるとかくれんぼをするそうだ。
「お前、鬼やれよ」
彼は僕に言いつける。周りは『そうだそうだ』と同意する。
やってもいいよ、その言葉を待っていたかのように周りは一目散に逃げていく。
知っているよと自分に呟く。
見つかる気なんてないくせに。
少年は歩いてみるが、やはり誰も見当たらない。昼間の通学路には誰もおらず影もない。
初めから少年を一人でずっと探させる算段だったのだろう。少年もやる前から予想はしていた。
日差しの強さにあてられたのか少年は影を求めて古いトンネルに入る。
常に日陰であるトンネルは少年にわずかな安らぎをもたらしていた。
ひんやりとするトンネルの中で聞こえもしない笑い声を覚えた。目を瞑り背けても塞いでも消えず響く音。それが自らの声に気付くことなくしゃがみこんでしまう。
終わり気配のない響きに我慢を超えた少年はトンネルに叫ぶ。
「もういいかい」
声が反響するトンネルの中で足は一歩目を踏み出していた。
薄暗さに少年の声が無数に響き、笑い声と混ざりに不気味さを覚える。
目を閉じていても分かる太陽光の眩しさとじめじめとした熱線を受けてトンネルから抜け出したことを理解すると目を開ける。走りを止めぬためか何時もの通学路は思わぬ速さで姿を移していった。
好きだけど嫌いそんな景色。
矛盾を孕むそんな思いは家路に着くまで続いていった。
嫌いな家族を撥ね退けて自分の世界へ閉じこもる。
窓開けぬ少年の世界は蒸し暑さを醸し出し、窮屈さを吐きだしていた。
扉の鍵をかけ、世界の中心へと座り込む。走りすぎたためか息切れは続いている。呼吸を整えようと深呼吸を繰り返していく。
世界も混沌。
正面の鏡に映る顔には汗と汗とは違う水筋が出来上がっていた。
眼下の表情に何かが切れた。
先生は言う。
「当たり前を当たり前に出来るようにしよう」
周りは頷く、彼も頷く。僕の言葉は無視される。
周りは笑う。
当たり前の事として僕を笑う。
僕の言葉は受け付けられず、僕の言葉は無視を受ける。
正しさは歪み、悪が正義に置き換わる。
止めろの声も奥に潜み、歪む心に据え変わる。
彼は言う。
「お前、昨日はどうしたんだ。みんなに聞いても見つかった奴はいないってさ。お前何やってた」
僕は目を伏せた状態で言う。
「みんな見つからないから帰っちゃったと思ったんだ、ごめんね」
「ならお前、今日はお前だけが逃げろよ。捕まってもみんな知らないからな」
周りは『いいねいいね』とフェイスブックみたいなことをいう。
そんなに楽しいのか。笑うことが。
公園に『もういいかい』と複数の音が聞こえる。
僕の足は唯一の逃げ場へと向かっていった。
お題『嘘つき』からでした。月並みですが、楽しんでもらえたら幸いです
嘘って難しいですね。
そうそう嘘と言えば昔見た映画のセリフで真っ赤な嘘と真っ白な嘘の違いを思い出したりします。
あとお題や感想待ってます。