絶望と奇跡
「グルルルル……」ウルフはエサを見つけた喜びを隠しきれないようによだれを垂らしヴァイスを見つめていた。
ヴァイスが知るはずもないがこのウルフは魔の森の中では最弱に近い部類に入っており、いつも狩られる側だったのだが久しぶりに狩る側になれたのである。
そして魔力が0とは言えあんだけ叫んでいれば見つかるのも無理はない。
「う、うわあああああぁぁぁぁ!」
ヴァイスは立ち上がり逃げ出した。
死にたくない!死にたくない!生きたい!
その思いでヴァイスは必死で走った。
しかし普通に考えて5歳の魔力もなく未熟なヴァイスが逃げられるはずがない。だが幸か不幸かウルフは久しぶりに狩る側になれた喜びで獲物を一思いにやるんじゃなく今のうちに狩る楽しさを味わうつもりだった。
強者にまわれた物だけができる弱者をいたぶること、それはヴァイスを力尽きる寸前まで追い詰めるつもりだろう。そして限界まで楽しんだ後で食する、それがウルフの考えだった。
そしてウルフの考え通りにヴァイスの限界が近づいていた。
逃げている内にヴァイスもウルフが遊んでいるということは理解していた。そしてそれを幸運に思った。
ウルフは僕のことを反撃の出来ない弱者と思っている……本当の事だ。
僕は剣を持っているとはいえウルフと戦えるはずがない、けどこのままじゃ限界がくる。正直限界が近いよ……どうにかしないと……
逃げているヴァイスの前に洞窟が見えた。
あそこに入れば……状況が変わるかも!?
ヴァイスはそこに向かって力を振り絞って走った!
ウルフも洞窟に入る前に仕留めようとヴァイスに向かって跳びかかった!
間に合わない!そう感じたヴァイスは振り返ると同時に剣を思いっきり振った!
ヴァイスが剣を振ったのは剣を捨てるためであり振り返ったのはもしかしたらウルフにあたるかもしれないと思って。
現実はヴァイスの考えの斜め上をいった。
振った剣は跳びかかったウルフの喉を切り裂いたのだ!
普通はあり得ない。だが跳びかかったウルフが無防備で何も警戒してなかったのと喉が柔らかった偶然が重なった奇跡である!
しかし所詮は5歳の子供の力、切り口は浅い。しかしウルフは動揺して立ち止まった。
ヴァイスを驚きのあまり呆然としていたがすぐに現実に戻り必死に逃げ出した。
ウルフは動揺がとけると今度は怒りを露にして追いかけた。
ヴァイスが逃げた先の地面に魔方陣が書いてあった。ヴァイスは気づいたがなりふりかまってられないので魔方陣に足を踏み入れた。
その直後、怒り狂ったウルフが跳びかかった!
しかし魔方陣に入りかけたその時見えない壁に弾かれたように弾き飛ばされた。ウルフは起き上がり何度も入ろうとするが入りきれなかった。
ヴァイスはこの魔方陣の中にウルフは入ってこれないことがわかりひとまず助かったことに安堵した。
しかし魔方陣が光だしたかと思うと地面が崩れた。