第8章 雨の長夜にすることは…(1)
目を覚ますと明るい室内で、木目のある天井が見えて、いつもの薄っぺらい蒲団に寝ていた。リリアが運んでくれたんだろう。まだ身体が少し重い感じがする。
そんな僕の耳に彩乃と総司の声が聞こえてくる。また縁側で話しているんのかな。
「総司さん、わたし決めたんですよ」
吹っ切れたような彩乃の声。その明るさに僕はほっとする。
「何をですか?」
「一緒にがんばりたいんです」
「え? 何をですか」
ああ、昨晩の決意を総司に伝えようとしてるのか…と僕は理解した。
しかし…彩乃が言うと、なんか軽さが漂うのはなんでだろう。まあ、シリアスより、軽いほうがいいよね。うん。
「一緒にいたいから…。だからがんばろうって」
あ~、危険だなぁ。主語がないよ。みんなと一緒にいたい。だよね? 案の定、彩乃の言葉の端を拾って、総司が畳み掛ける。
「彩乃さん。一緒にいたいって思ってくれるんですね!」
「はい。一緒にいたいんです」
ほんわりとした彩乃の言葉。きっとかわいらしく微笑みながら言ってるんだろうな~っていう、温かい声だ。
「彩乃さん。嬉しいです」
「そんなに喜んでもらえて、わたしも嬉しいです」
「彩乃さん」
総司の声に感動が混じる。まずいね。こりゃ。そう思っていたら、彩乃がトドメを刺した。
「総司さんがそう言ってくれて嬉しい…。みんなと一緒にいられるように、みんなを守れるようになろうねって、お兄ちゃんと話したんです」
「え?」
総司の愕然としたような声が聞こえる。あ~。やっぱり。
「総司さんも応援してくださいね」
僕は思わず吹き出しそうになったのを慌ててこらえて…咳になった。
「あ、お兄ちゃん、起きたみたい。総司さん。わたし、がんばりますね」
がらりと障子が開く。明るい日差しの中に彩乃の顔がのぞいた。その後ろには灰になったような総司。期待が大きかった分、ご愁傷様です。
そこへ第三者の声が入る。
「宮月くん、いいですか?」
珍しい。山南さんだ。
「どうぞ」
僕がそう答えると、彩乃が障子から離れ、代わりに開け放った障子の間から一杯の太陽光と共に、山南さんが入ってくる。
「倒れたって聞きまして」
「あ、すみません」
僕は寝たきりだったことに気づいて、慌てて体を起こそうとした。
「いやいや。そのままで」
山南さんは、穏やかな笑顔で言って僕を押しとどめる。
あまり礼儀作法的には良くないと思ったけど、お言葉に甘えて僕は寝たきりにすることにした。
山南さんが枕元に来て、僕の顔を覗きこむ。
彩乃は、ごゆっくり…と言って、出ていった。総司も一緒に行ったのだろう。気配が消える。また壬生寺に行くのかな。
そんなことを考えて、彩乃が出て行った後をぼーっと見ていたら、声がふってきた。
あ、そうだ。山南さん。
「疲れが出ましたか」
「え?」
「慣れないところで、疲れたのではないですか」
何か気づかれたのかと思って、僕はどきりとする。昨日、彩乃が言ったことそのままだ。
「京と江戸はだいぶ違いますからね」
あ、そういうこと。ちょっとホッとする。




