第7章 人の命(11)
「リリア」
「俊にいは、分かってないよ。俊にいが、あたしに人を殺して欲しくないと思っているのと同じぐらい…ううん、それ以上に、あたしは、俊にいに自分を『化け物』だなんて思ってほしくないっ!」
リリアは膝をついて、泣きながら僕の肩に手をかけて、僕の顔を覗きこんだ。
「嫌なら使わないで。こんな力、使わないで。大丈夫だよ。あたしも剣を振るう。彩乃も大丈夫。人を殺したって、化け物になんかならない。絶対に。だから、俊にい、一緒にがんばろ? 一緒にこの時代でちゃんと生きようよ。できるだけ。できるだけでいいから。ね?」
目を逸らす僕の視線を、もう一度リリアが合わせてくる。
「見える範囲で、普通の人間ができる範囲で、みんなと一緒に戦おうよ。戦うときに人間ができる以上の力は使わない。それだったらきっと歴史は変わらないよ。それで、できる範囲でみんなを助けようよ」
リリアが僕をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫。守るから。あたしが、彩乃が、俊にいのこと、守るから。絶対に、誰にも『化け物』なんて呼ばせない」
僕は泣きたいような、笑いたいような気分になった。これじゃ、いつもと逆じゃないか。
「リリア」
僕は深くため息をついた。身体が重すぎて、思考がうまく回らない。
「一つだけ約束して」
「何?」
「僕がもう危ないと判断したら、引くと決めたら…僕に従って」
「そんな…」
「僕たちは不死身じゃない。絶対に死なないわけじゃないから。だから…お願い。せめて君の命だけは守らせて」
リリアはゆっくりと頷いた。
ああ、まったく。いつの間に、小さくて、僕の後ばかりを追っていた女の子は、僕を守るとか言ってくれるようになっちゃったんだろう。
身体が支えられないくらい重い。僕は身体の重さに耐え切れずに、そのまま意識を手放した。




