第7章 人の命(8)
「平助くんが言ったことは正しいと思う」
リリアが言葉を続ける。
「ほら、あたしたちが殺さない分、総司さんや平助くんが斬ってるってこと」
「ああ」
「ここにいる以上、みんなと一緒にいるなら、逃げるべきじゃないと思う」
「でも…僕たちは、歴史を変えてしまうかもしれないよ?」
ふんわりとリリアが微笑んだ。
「俊にい、あたしたちがこの流れから抜け出せない以上、あたしたちも歴史の一部だよ?」
「そうかな」
「そうだよ。あたしはみんなと一緒に歴史を作りたいよ」
この言葉に僕は考え込んだ。
「それは非常に危険だよ」
「そうなの?」
「僕たちは未来を知ってる。だから意図的に操作をするのは良くないと思う。それに、この先の歴史をリリアは認識してる?」
「うーん。大政奉還して、天皇の政治になって、明治になるんだよね。社会で習ったよ」
「そう。新撰組はどこにいるか分かる?」
リリアが首を振る。
「新撰組は幕府を擁護する立場だよ。つまり幕府を続けさせようっていうほうにいるんだ。そして外国勢力を追っ払おうとしている立場だ。まあ、今はこの国全体が異国嫌いなんだけどね」
「だから?」
「僕は幕府はどうでもいいけど、外国勢力は追い払えないと思ってる」
「そうなの?」
「リリア。今、海外の歴史がどうなってるか分かる?」
またリリアは首を振った。そうなんだよね。歴史教育では、自国の歴史はやっても、なかなか世界の中での自分の国という意味で、結びつけて教えることは少ないから…。世界史は世界史、日本史は日本史となってしまうんだろう。
「アメリカでは南北戦争が起こってる。リンカーン大統領の時代だ」
「え?」
「銃が普通に使われているんだよ。大砲とか。まあ、一応、今の日本にもあるけど、もっと日常的だね。それに船だって違う。ちなみにパリではガソリンエンジンを使った車が走り始めてる」
「うそ」
「技術力が違うんだよ。鎖国している間に、世界は飛躍的に技術が進歩している。特に戦争に対しての技術がね。そしてそれをバックにして、欧米の列強国は、アジアの国を植民地化しているんだ」
リリアが黙り込んだ。
「開国のタイミングを誤ると、日本も植民地化される可能性が高い。植民地化した場合は、富みを絞りとられて、さらに極東軍事基地として使用されるだろうね」
ポンと僕はリリアの頭に手を置く。




