第1章 隊士になります(6)
「はじめ!」
また二人が動かない。だがさっきとはまるっきり雰囲気が変わっていた。
二人からはピンと張った糸のような緊張感を感じる。
すっと彩乃が下段のわき構えを取る。下段のわき構えっていうのは、人間の死角から竹刀が出てくるから、意外に有効だ。剣道の試合ではルールがうるさいからあまり出ないけど、僕とやるときには結構使う。
そう。最初は僕を相手に剣道をやっていた。
そりゃそうだよ。いきなり人間相手にやったら、相手を殺してしゃれにならない。
僕ならそこそこのスピードにはついていけるし、何より竹刀程度なら死なない。
それはともかく…。
沖田は正眼に構えたままだった。なんだっけ? 平晴眼の三段突き。出すのかな~。
思わずワクワクしながら見守った。
彩乃はまた首をかしげた。ああ、可愛い。
でも今度は僕に確認をせずに、動き始める。やる気まんまんと言ったところだろう。
強い相手とやりたいのは何も沖田だけじゃなかったらしい。
下から小手を狙いにいくかと思ったが、彩乃はくるりとわき構えの竹刀を背面から回して、上段から頭の上を狙った。
一足で沖田の前まできたら、相手にしてみたら、いきなり敵が目の前に来たと思っただろう。
だがさすがというべきか、さっきの試合を見ているからか、上から降ってくる竹刀を沖田は紙一重で捌いた。
捌かれた瞬間に、彩乃はすっと後ろに下がって間合いを取る。
このあたりがうまいよね。
もう一回、彩乃が動く。今度は正面から切り返し。
かなりのスピードだけど、一応人間のスピードだね。
沖田はよく付いていっているけれど、そろそろ無理かな。
それは一瞬だった。沖田の竹刀が上にはじかれた瞬間に、ぱしーんという音が響き渡る。
きれいに胴が決まっていた。
ご愁傷様です。
そして次は僕の番だ。
…と思ったら、怒声が響いた。
「てめぇら何していやがる!」
土方だ。
「新入り、めしの支度しろ」
どうやら食事の支度は僕らの仕事らしい。というか、毒盛ったらどうするんだよ(笑)
彩乃はさっさと防具を脱いで、きちんと床にきれいに置いていた。
僕も手に持っていた竹刀をその横に置く。
顎で指図されながら、土方についていくと、非常にレトロな台所があった。当然ガスコンロはないから薪だし、釜だし。米びつは出されたが、一回に使える量を示されて、絶対に男がこれだけいて、足りないだろうっていう量だった。
いつの間にか沖田が来ていて、隅にいる。土方は入れ替わるように出て行った。
「これ、足りないでしょ」
米をさして言うと、さっきの気迫はどこへやら、へにゃりと笑うと、
「八木さんからお借りしているから、無理は言えないんですよ」
と返事がきた。
「おかずは?」
と訊ねると、は? と返された。