第7章 人の命(7)
夜中。リリアと僕は、川原で夜鷹の血を吸っていた。
夜鷹っていうのは、低料金で男の相手をする娼婦だ。街角で男の袖を引き、そして適当な場所でコトに及ぶ。とりあえず一人ひっかけて、そしていつもの要領で献血してもらう。
細い月明かりだけだから、傍からみたら3人で…みたいな雰囲気になっているんだろうか。いやいや。馬鹿なことを考えるのは止めておこう。自分の想像のせいで、なんとなくリリアに申し訳ない気持ちになった。
一定量の血を頂いてから、意識を無くしている夜鷹の袂に、最初に交渉した金銭を入れておいた。「身体」を提供してもらうって言う意味では、同じだからいいかな。
それから僕らはぶらぶらと鴨川のほとりを歩き始めた。たまに人がいるけど、皆寝静まって静かなもんだ。
「俊にい」
リリアが小声で呼びかけてくる。
「何?」
「このままここに居る気?」
「どこに行こうっていうの?」
「戻れないの?」
「うん。戻れないと思ってるよ」
「え?」
リリアが目を見開いた。
実はそれはずっと考えていたことだ。僕らはなぜかここに来た。僕らは東京から京都へ。現代から幕末へ。
「実は僕らが落ちてきた場所を見に行ったけど、何も無かった」
そう。僕らが最初に京都に降り立った場所には、何も無かった。穴も、何も。僕らがどこから来たのか、もう分からない。
「東京のほう…今は江戸か。江戸にもしかしたら穴があるかもしれない。でもそれはどこにつながるか分からない。もっと酷い時代につながるかもしれない」
僕は長い息を吐き出してから、空を見上げた。暗闇でも星はある。
「このままここに居れば、時間は流れる。たった150年で元の場所に帰れる」
「えっ」
僕はリリアに微笑んだ。
「150年なんてあっという間だよ。その間に戦争が何度も起こるけど、起こる場所は分かっているわけだから、僕らはそこを避けて生きていけばいい」
「そうかもしれないけど…あたし、おばあちゃんになっちゃうじゃん」
その言葉に思わず吹き出した。
「ならないよ。150年ぐらいなら今の姿のままだ。多少は大人びるかもしれないけど、150年後の友達に会っても、きっと気づかれないよ」
リリアは呆れたように僕を見ている。
「大丈夫。君は僕が守るから」
「俊にい…」
リリアは胸元でぎゅっと両手を握り締めた。
「俊にいは勘違いしてるよ」
「リリア?」
「あたしは守られるだけなんて嫌っ。俊にいだけが辛い思いするなんて嫌。人間を殺すことなんてどうってことないよ! 俊にいが剣を握るなら、あたしだって握る。人を殺すなら、あたしだって殺す」
「リリア」
「やめてよ。一人で背負わないでよ。彩乃だって一緒だよ。あたしと同じ気持ちだよ」
僕はじっとリリアを見つめた。必死に僕を説得しようとしている妹の顔を見た。




