間章 その理由(2)
「でもよぉ、斬りつけは素人だぜ」
新八が言うと、それに斉藤は同意した。
「確かに」
「それに人を殺すのを怖がるよな」
平助のその言葉に斉藤は目を細めた。
「だってよ、この前も不逞浪士がくるのを、全部俺と総司で仕留めたんだぜ?」
「まあ、誰だって経験が無いうちは人を斬るのは躊躇しますよね」
平助の言葉に、総司が苦く笑いながら言った。
「慣れすぎもどうかと思いますけどね」
山南さんが困ったように言う。
「ま、今度本気で打ち込んでみるかな」
と伸びをしながら、気楽な様子で左之が言う。
「やめておけ」
それを斉藤が止めた。また皆の視線が斉藤に集まる。
「殺されても文句を言えない」
「はぁ?」
待てよ。今まで、散々、人を殺せないって話をしてたじゃねぇか。
「あいつは人を殺せる」
ああ。こいつも見たんだ。あの目を。
「目が違う」
やっぱりな。
「それに殺気が違う」
「じゃあ、なんで殺さないんだよ」
平助が不満げに言った。
「坊主…ですかね」
源さんこと、井上源三郎がポソリといった。
「ほら、殺して、弔って…とか?」
「それだとここにいる理由が訳わかんねぇよな」
と新八。
たしかに訳わかんねぇな。
「まあ、まあ、いいじゃないか」
かっちゃんが笑って、そう場をとりなす。
「強いんだったら味方に居てくれるのは心強い。そうだろ? どうせ我々だって、そんなに堂々と何をしてきたと言えるわけじゃあるまい」
皆が居心地悪そうに身じろいだ。
確かにな。
「ほら、酒。買ってきてあるから、飲むといいよ」
そういって、かっちゃんは押入れから大徳利を出してきた。皆が盛り上がる。こういうところが、かっちゃんは凄いと思う。場をうまく和ませていく。
その後は綺麗さっぱり、あの男の謎は忘れて、俺たちは酒盛りを楽しんだ。




