第7章 人の命(6)
肩で息をする総司と平助。その場で立っているのは僕たちだけで、敵は皆、地面で事切れていた。
つかつかと平助が僕に寄ってきて、胸倉をつかんだ。
「お前なっ! いい加減にしろよ」
ひるむ僕に平助が言葉を続ける。
「敵は殺せ! 斬れ! 避け続けたって、消えてくれないんだぜっ!」
「でも…」
「でも、も、ヘチマもあるかっ! 結局、お前が避けた敵は俺か総司が斬るしかねぇんだからな。分かってんのかよ」
あ…。
「俺らに斬らせて自分は逃げるだけかよ」
まぁまぁまぁ…と総司が割って入る。
「人を殺すのは、最初は躊躇するもんですよ。私もそうでしたしね」
「ちっ」
総司のとりなしに平助は舌打をすると、「折角、風呂入ったのに、血だらけだぜ」とぶつぶつ言いながら、先に行ってしまった。
「俊」
「ん?」
「平助が言ったことも、事実ですよ」
「うん…」
「逃げても敵は消えてくれません。斬るしかないんです」
「うん」
「大丈夫。最初は戸惑うかもしれないけど、彼らは敵なんです。まずは斬ってください。そのうち殺すことにも慣れますよ」
そうへにゃりと笑って言うと、ちらりと彩乃のほうを見た。
「彩乃さんも、隊士でいる以上は、人を斬る覚悟が必要ですよ」
「…」
「今度、『死に番』というのを定めるそうです」
しにばん…って何だろう。話の展開が見えなくて、僕はじっと総司を見た。彩乃も隣で総司の言葉を待っている。
「一番に敵に突っ込む役ですよ。怖気づく人が多いですから。そうすると生き残れるものも、生き残れなくなる。だから腹を括らせるために、順番に特攻役を作るんですって。土方さんの提案なんですけどね」
総司はふっと笑った。
「怖い怖いと思って怖気づいていると、敵が異様に強く見えるものですからね。逆に自分が突っ込まなければと思っていれば、相手をよく見ようとするものです。だからじゃないですか。生き残るための一つの術ですよ」
さぁ、行きましょうか…と独り言のように呟いて、総司は僕らに背中を向けた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「どうする?」
「うん…」
僕は曖昧に頷いて会話を終わりにした。死に番の話を聞いても怖くはない。相手はたかが人間だし、彩乃だって遅れを取るようなことは無いだろう。
それでも躊躇するのは、ここで戦うことが人を殺すことにつながる可能性があるからだ。僕の中での答えはまだ出ていない。




