第7章 人の命(5)
夕方には、気持ちだけでもさっぱりさせようと、総司と平助に誘われて、湯屋に出かけた。彩乃も一緒だ。もちろん浴槽は男女別だけどね。
湯屋は洗い場はなくて、浸かるだけだ。混んでるし。綺麗かって言われれば、いろんなものが浮いているから、あまり見ないほうがいい。けど、熱いお湯はいいよね。
昼間から続いていた鬱々した気分が、少しばかり晴れた。大体いつまでも落ち込んでいたりするのは性に合わない。
湯屋を出て夕涼みをしつつ、ぶらぶらと屯所に帰るために道を歩く。道が舗装されていないから、風が吹くときな粉まみれみたいになるんだよね。風呂の意味はあったのか? まあ、お湯に浸かったってだけでもいっか。
みんなで他愛の無いことを話しながら、角を曲がったときだった。殺気を感じた。
「きえーぃ!」
気合の入った掛け声と共に、刀が降ってくる。僕はとっさに彩乃を背にかばって後ろに下がった。
ばらばらと現れた侍たち。こっちは一応、刀を持っているけど、皆、脇差しだ。僕は例のレイピアもどき。
ここで戦えば折角お湯を浴びたのに、また血だらけになる。そんなことを考えたのは僕だけだったみたいだ。さっさと総司と平助は剣を抜いた。
多勢に無勢といえども、相手が悪すぎる。百戦錬磨の二人が襲い掛かってきた侍たちを切りつけている。僕が彩乃を背に逃げ回っていても、二人は確実にしとめていく。
「俊! お前、何やってるんだよ!」
平助の怒声が響いた。
あ~、ごめん。僕も一応刀を抜いたは抜いたけど、実は相手の剣を払うだけで、斬ってない。
と思っていたら、平助の後ろに斬りかかる影が映る。さすがに平助に怪我をさせるわけにはいかない。僕は相手の肩を狙って、細身の剣を突き刺した。
「うっ」
相手の呻き声に平助が反応して、後ろを向いて斬りつける。ぱっと血しぶきが上がって、敵が崩れ落ちる。




