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第7章  人の命(2)

 これで逃げてくれるといいんだけど…と思いつつ、思いっきり睨みつけると、相手は顔を恐怖に引きつらせて逃げていった。


 ふぅ~。よしっ。


「お、おい」


 平助が我に返ったらしい。


「何、逃がしてるんだよ! 追えよ」


 あ、そっちか。人使い荒いなぁ。


 あ~とか、う~とか言いながら、僕は軽く血のついた刀を拭いてからモタモタと納めると、相手の背中を追って走り出した。いや、追いつかないように走ってるんだけどね。


 とりあえず追ってるよ~っていうアピール。だって僕が本気だしたら、並の人間だと逃げられないからね。



 ずっと追っていくと、いつの間にかまわりは田んぼになり、男の背だけが見える。そろそろいいかなぁと思ったところで、殺気を感じて立ち止まった。


 ぐるりと見回すと見知らぬ男たちが抜刀して、僕を取り囲んでいる。失敗した…。どうやら深追いしすぎたらしい。後ろを振り返るけど、誰も僕を追ってきてはいないらしい。つまり孤立無援。


 あ~、厄介だなぁ。僕はおずおずと口を開いた。


「あのさ。見逃してあげるから逃げなよ」


 とたんに男たちがゲラゲラと笑う。


「そうじゃないと、君たちを殺すことになっちゃうよ?」


 さらに笑い声は大きくなった。 


 間が悪いことに、今日はレイピアもどきの細い刀は持ってきていない。あれだったら、まだ普通に戦えたんだけどな。多少の傷を覚悟で体術で対応するか…。でもこの人数だからなぁ。


 そんな風に一瞬、頭の中を思考が駆け抜けたけれど、それよりも敵の動きのほうが早かった。


「うぉー」と雄たけびが上がって、一斉に斬りかかってくる。


----- Requiem aeternam dona eis, Domine.

  (主よ、彼らに永遠の平安を)


 僕は祈りの言葉を呟くと、力を使って2mほど飛び上がった。敵の一人の頭に足をかけて、輪の外に出る。



 トンと、地面に降り立った僕の目の前にはガタガタと震え出した男。

 僕の目をじっと見ている。

 刀傷が残る頬からは血が出ていた。


「ば、化け物…」


 何言ってるんだか。


 後ろでドサリ、ドサリと倒れる音と、うめき声が聞こえた。円形で真ん中にいる敵を狙ったら同士討ちは必須。現代じゃ基本的な戦闘知識なんだけどなぁ。仕方ないね。お互いを斬り合ってご愁傷様だ。


「よ、寄るな。寄るなっ!」


 声が震えている。瞳の赤くなった僕は、怖く見えるのかな。でもさ。死体が残るような戦い方をしただけ良しとしてくれないかなぁ。


「この瞳のことだけ、忘れて」


 そう告げたとたんに、がたん…と糸が切れたように、男が倒れた。この瞳を見たのはこの男だけだ。


 後ろではうめき声が続いている。多分、死なずに済んだ者もいるはず。助かるかどうかは知らないけど。


 僕はそのまま振り向かずに去った。


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