第6章 政変…のはずですが(16)
しばらく歩いて止まったところで、近藤さんが皆の前に出て声を張り上げた。
「これより会津候預かり壬生浪士組は、御花畑の警護をいたす!」
…。
え?
まわりも一瞬ざわめいた。
「我らが警護すべきは御花畑。一同ご油断召されるな!」
あ~。本気なんだ。御花畑って、本当にあの花がたくさん咲いている花畑のことかなぁ。でもほら、御所っていろんな名前があるからねぇ。門の名前だって特殊だし。
とか思いながら、僕らがついたところは、本当に花壇の前だった…。
御所の南門である建礼門の前にあった御花畑の前に陣をはり、とりあえず警護。っていうか、待ち?
困ったね~。何もすることが無いんだよ。でも警護という以上、遊んでいるわけには行かないから、みんな立って、じっとしている。こそこそと話をしたりするけど、あんまり大声で話すわけにもいかない。
警備員さんとか、街角のおまわりさんとか。実は結構大変なんじゃない? と思う。正直、ここにいると何が起こっているか、さっぱりわかりません(笑)
そこへ弓の名人の早太郎くんが通りがかる。一応、連絡係とかで、役付きの人たちは局長と平隊士の間をうろうろしていた。
ちょいちょいと手招きすると、人のよさそうな顔で近づいてくるので、こっそり聞く。
「どうなってるの?」
「御所は会津藩と桑名藩で固めてるらしいっす」
よくわかんないけど、とりあえず御所を守れと。それで、全員集合~って感じか。実際、善右衛門さんから聞いた話を総合すれば、今、会津の藩兵は二倍いるわけで…。警護をするには好都合だよね。
「この後どうなるのかな?」
「さぁ」
あ、やっぱり。
結局、一日以上拘束されて、解散。僕たちがやったこと…ずーっと立ってて、途中で居眠りとかして、座り込んだりとかして、また立ってて。
いや~。これは大変だわ。僕は基本的に眠らなくてもいいけど、とにかくヒマ!
なんか納得がいかないまま、もう警護はいいという話になったらしくて、とりあえず整列して屯所に帰ることになった。行きと同じく行列が辛い。
ようやく屯序に着けば何もしていないのに疲れきった僕たちを、彩乃が心配そうな顔で出迎えた。
「お兄ちゃん?」
「話は後ね」
とりあえず近藤さんから慰労の言葉を聞いて、僕たちは解散した。
そして僕たちの部屋。
まわりから聞こえるのは爆睡してるいびき声。
「どうだった?」
「何もなかった」
え? と驚く彩乃。
僕は思わず深いため息をついた。緊張しまくっていたのが馬鹿みたいだ。
「御花畑の前で、ぼーっとしてただけ」
「え? 御花畑? 花壇のこと?」
「まあ、そんな感じ? 結局待機だけで終わったんだよね~」
彩乃がほぉっと息を吐いた。
「みんな無事で良かった」
あ、そうか。そうだよね。
まずはそこを喜ぶべきだった。僕は緊張しすぎて、かえって拍子抜けしちゃったから、おかしな感じだったけど、みんな無事だったんだよね。
思わず彩乃の頭をなでようとして、ペシと手をはたかれる。大して痛くはないけれど、反射的に手をさすりながら、僕は彩乃に笑いかけた。
「彩乃の言うとおりだね。良かったよ。みんな無事で」
「うん。そうだよ。良かったね」
「そうだね」
こうして僕たちの「八月十八日の政変」は終わった。




