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第6章  政変…のはずですが(15)

 壬生浪士組みの隊員は「誠」の旗の下、会津藩を示すそろいの黄色の木綿たすきをかけて、そろいの羽織を着て、二列になって御所までパレードをしたわけだ。


 ちなみに列になって長時間歩いたことある? これが結構大変なんだよ。


 自分の速度で歩けないんだよ? 人に合わせて行進するんだから。運動会の行進が長時間続くことを想像してくれたらいいよ。前の人にぶつからないように、前の人の草履を踏まないように(気を抜くとすぐに踏むんだ。これが)。だらだらと歩く。


 草履って、引きずらないように歩くためには足の親指と人差し指で鼻緒のところをしっかりと掴むというか、締めておく必要がある。それでずっと歩いていくのは結構つらい。 リズムに乗れないと、今度は後ろの人に草履を踏まれるし。ああ。また踏まれた。もう嫌だ。


 一時間弱ぐらいかな、いい加減めんどくさくなってきたところで、漸く御所が見えた。蛤御門だ。



 僕は全体の列の比較的前のほうにいた。夜明け前の門は、かがり火でライトアップされている。趣があるよね。これが観光だったら、写真をバシバシ撮りそう。羽織袴で武装した人たちがたくさんいるから、シャッターチャンスだよね。


 でも近づいてみたらそんな雰囲気じゃなくて、どこかピリピリしていて、カメラを向けたとたんに殺されそうだった。


 そこを僕らは通って中へ入ろうとしたんだ。だって御所を警護しに来たんだから、入らないと。ところが入ろうとしたところを槍で脅してくるんだよ。入れてくれないの。


 一体、連絡系統はどうなってるんだろうって、呆れちゃうよね。会津藩から来てくれって言われたはずなのに。


「何者だっ」


「名乗れ!」


 と、門の前で槍を振り回している男たちが叫ぶ。


 近藤さんと新見さんが、あれ? って顔して、「いや、我々は会津藩より要請を受けて…」とか言うんだけど、全然聞く耳を持たない。


 名乗れって言ったはずなのに。おい、おい。


 困ったな~って感じで、近藤さんと新見さんと土方さんも来て、わいわいとやっていたら、いきなり芹沢さんの良く通る大声が聞こえた。


「我らは会津候預かり、壬生浪士組である! 無礼をするようであれば、後悔するぞ!」


 そう言いながら、こちらに向けていた槍を普段持ち歩いている大きな鉄扇で跳ね上げた。芹沢さんの冷たい視線と隙の無い立ち姿に、今まで蔑むように見ていた門に居る男たちが黙り込む。


 しばらくしてから、我に返った男たちが何か言おうと口を開きかけたところで、向こうから走ってくるものがいた。


「待ちなさい! 無礼なことをするな!」


「野村殿…」


 門の男のうち、一人が呟いた。野村殿と呼ばれた人が、息を整えながら芹沢の前に立った。中年を超えたぐらいの温厚そうな男だ。


「芹沢先生。拙者の落ち度で、大変失礼しました。問題ございませんので、どうぞお通りください」


 そう言ったとたんに、門は左右に開かれ、道が明けられる。


 その前を堂々とまずは芹沢さんが通っていった。そして近藤さん、新見さん、土方さんと続き、僕たちも続いて入っていく。


 悔しいぐらいに、芹沢さんは筆頭局長として威風堂々としていた。これで飲んだくれて暴れなきゃ、本当にいいんだろうけどね~。


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