間章 流行のまじない(2)
「なんだよ」
そう言ったとたんに、二人とも目を逸らした。
「「なんでもないです」」
親子そろっておなじことを答える。まったくこいつらは…。
そう思ったが、何も言わずに俺はその場を離れた。そして自分の部屋に行く前に、ふっと思いついてかっちゃんのところに寄る。
「邪魔するぜ」
そういって障子を開けると、かっちゃんが片方の肘を曲げて、片方の指で指圧している。
「おい、おい。何やってんだよ」
そういうと、かっちゃんは人好きのする笑みを浮かべて、俺に肘を見せた。
「最近、隊士の間ではやってるんだよ。稽古の疲れを癒すまじない」
いや、それ、まじないじゃねぇらしいんだけどな。
「押してみると、なかなか気持ちいいよ。痛いくらいがいいらしい」
「いや、それはなぁ」
かっちゃんが俺の袴の裾を引っ張る。
「トシにもやってあげるよ」
そういうと俺の肘をつかんできて、無理やり座らせた上に、肘を抱え込んで曲げる。
「ここで、こう曲げて…じっとしてなよ」
そう言った瞬間に
「近藤さーん」
がらりと障子が開いて、平助と左之と新八が転がりこむように入ってきた。
「聞いてく」
そこまでいって、平助が動かなくなる。他の二人も俺たち二人を見つめたまま動かなくなった。
しばらくして呪縛が溶けたように、左之が、かりかりと頭をかいた。
「土方さん、両方いける口だったか。やべぇな」
そう言って、俺たちを見て困ったように笑う。
「衆道(男色)も人の好き好き。歴史上の有名人も多かったらしいしな」
と、意味不明な解説をする新八。
いや、ちょっと待て。
「俺ら、邪魔じゃね?」
と平助がくるりと背を向ける。
「だな」
「また改めて来るっつぅことで」
左之と新八も背を向けた。
はっと俺は自分の状況を見る。胡坐で座るかっちゃんに引き寄せられるように、横座りで座ってる俺。
「いや、ちょっと待て! その誤解はねぇだろ!」
俺は慌てて大声で叫んだ。
「誤解されたねぇ」
おおらかに笑うかっちゃん。だから、かっちゃん、笑い事じゃねぇって。
俺の怒声をかっちゃんの笑い声が包んでいく。
これは絶対、宮月のせいだ。あいつが変なことを流行らすから。絶対シメる。
俺は心にそう誓った。




