間章 流行のまじない(1)
うちの稽古は激しい。まあ、俺にしてみりゃ、江戸にいたときと同じだけどな。
朝から晩まで暇さえあれば稽古。夜は刃引きの刀(刃をつぶした刀)で、平隊士を襲いに行く。もちろんお互い同士で襲わせることもある。
とにかく、朝から晩まで剣を振るう。そうしなきゃ、腕は上がんねぇし、いざという時に戦えねぇ。
稽古に痛みはつき物だ。特に慣れねぇうちは、体中が痛くなる。そんな感覚、とっくの昔に忘れちまったけどよ。
ところが最近、へんな光景を見るようになった。
「おめぇら、何してやがる」
こいつらは、馬詰とかいう親子だな。えらく気の弱い親子で、よくパシリにされている。そのうちのえらく男前な息子のほうが、親父の前に座って、親父の手を握っていた。
こいつら、そういう趣味があったのかよ。
俺が声をかけたとたんに親子ともビクリと肩がゆれるが、悪びれた様子はない。
「あ、これは…その…」
息子がおどおどとしていて、あまりにも返事が遅いんで、思わず俺はじろりと睨みつけちまった。
「いいから、何してたか言ってみろよ」
そういうと親父のほうが答えた。
「身体の痛みをとる方法で」
「はぁ?」
「こう腕の横をさすっておくと、腕の痛みが軽くなるんです」
そう言って、親父のほうが俺の目の前で、肘から手首までをさすって見せた。
「なんかのまじないかよ」
そう俺が言うと、今度は息子が答えた。
「あ、あの…宮月さんが教えてくれて…」
またあいつかよ。
「何を教わった」
俺が言うと、びくりとまた身体が動く。別に怒ってないから、いちいちビクつくんじゃねぇよ。
そう思いつつも、黙ってしゃべるのを待ってると、親父のほうがまた話す。
「肘から手首をさするといいのと、あと肘を曲げて指が入るところを指圧するといいと教えてくれて」
「それから背中のこの部分と」
息子のほうが親父の背中の骨に沿った部分を指差して、「ここをさするんです」という。
「そんなんで効くのかよ」
「はい」
弱弱しく答えるのは親父。
「まったく稽古の後に身体が痛いなんざ、稽古が足りねぇんだ。痛いのも我慢して稽古してれば、吹っ飛ぶもんだろ」
そう言うと、二人してじっと俺を見てくる。




