第6章 政変…のはずですが(10)
「平助、私は大丈夫だし…こっちはもうこれ以上はどうしようもないので、あっちに合流してください」
総司が背中をさすりながら言った。リリアがその背を支えている。
何、この構図。なんかもやもやする僕の気持ちをよそに、平助は僕を一瞥すると、片手をあげてから大部屋のほうへ向かって歩いていった。
「しゅんに…、お兄ちゃん、お水」
「え?」
「お水! もってきて!」
あ~、水ね。水。
僕は部屋においてあった竹筒を持ってくる。それをリリアに渡すと、リリアは総司の口元に竹筒を持っていった。
「飲める?」
「あ、はい」
一口飲んでから、総司はリリアに笑いかける。
「夜だからかな。俊の前だと彩乃さんは気さくなんですね」
一瞬、どきりとしてリリアと僕は視線を交わした。
「昼間も…私の前でも、そのぐらい遠慮しなくていいんですよ」
総司が差し出されたままの竹筒を見ながら、寂しげに言う。
「あ、はい…」
リリアはかろうじてそう答えると総司を支えていた手をそっとはずして、すっと立ち上がり僕の後ろに隠れた。
「あ…」
総司の視線がリリアを追うように動く。そしてふっと視線を落として頭をかいた。
「警戒させちゃいましたか。まだまだですね。私も」
そう呟くと、片手をついて立ち上がり、竹筒を差し出してきた。
「もう大丈夫なんで、私もあっちに合流します」
「あ、うん。ごめんね。ホント、総司と思わなくて」
これは、本心からの謝罪。
「いえいえ。これ、実戦訓練っていうか、稽古の一環として考えたんですよ。でもまさか足が来ると思ってなかったんで、油断しました。さすがですね」
「いやいや。ホント、偶然だから」
「どうだか」
いや、ホント、偶然なんだって。
総司は笑ってから、そして寂しそうに僕の後ろに隠れてしまったリリアに視線を移すと、言った。
「じゃあ、おやすみなさい。私はこれで」
「あ、ああ」
「おやすみなさい…」
僕とリリアの声を受けて、総司は去っていった。
僕たちは詰めていた息を吐き出す。
「こんなの毎回やられたら、僕の神経が持たないよ」
「同感」
はぁ~。




