第6章 政変…のはずですが(8)
まあ、僕らの種族は野生の動物みたいなもんだから、人間よりは自浄作用があるのと、人間につく虫がつかない。その分はマシだ。
平隊士が一杯入っている大部屋とかさ、ノミとかダニとか平気でいるんだよ。男だらけでむさ苦しい上に、臭い。現代の感覚からいくと不衛生だ。風呂は数日に一回。髪は一ヶ月に一回洗えばいいほうだから仕方ない。それに洗濯も洗濯機がなくて手洗いだから、めんどくさいしね。
彩乃がいてよかったよ~。二人だけの部屋だから、比較的清潔にしていられる。蒲団もしょっちゅう部屋の前の縁側で干してるしね。
そうそう。蒲団というとふかふかなのを想像するかもしれないけど、実はペラペラだ。それでもいいほうだよ。蒲団に寝られるのは富裕層だけで、基本的にムシロか、畳の上にごろ寝か。そして上掛けも、ムシロとか、そういうのが多い。ムシロっていうのは、なんていうか、ゴザって言えばいいのかなぁ。草を編んだ薄い敷物だ。
冬が怖いね。
翌朝、僕はちょっとばかり朝稽古をサボって台所に行った。ほんの少し前までは、僕が食事の用意をしていたのに、今は通いで来てくれる人がいる。楽になったよね。
彩乃もついてきた。こういうのは体験しておいたほうがいいと思うから、僕も何も言わずにつれてきた。石鹸を作るとか、現代だと一部のエコな人たちはともかく、あまりやらない体験だしね。
邪魔にならないように、食事がほぼ出来上がったのを見計らって、使っていなかった小さな鍋を借りる。ちょうど竈の火が消える前だから、このタイミングで来たんだけどね。普通はアルカリ性のところに油を入れるんだけど、今回は油のほうが少ないから、油を先に鍋に入れる。火から離して弱火ぐらいのところで焦がさないようにゆっくり温めながら、灰の上澄み液を濾したものを入れていく。
うん。なんとか固形化しそう。ぐるぐるとかき混ぜて、ある程度固まってきたところで、火から離す。
彩乃が鍋を覗き込んで、ぷよぷよと石鹸をつついた。
「なんか変なのができてる…」
「これが石鹸。形に入れれば、見栄えがいいけど、形がないからこのまま固めて、それで切って使えばいいかなぁって」
「凄いね。さすがお兄ちゃん!」
彩乃はニコニコした。ま、成功っていうことでいっか。
そしてその夜、いささか浮き浮きしながらシャワーの用意をしていた僕を、彩乃が止める。
「お兄ちゃん、今日は止めたほうがいいかも…」
え? なんで? どうして?
せっかく石鹸も切り分けて、和紙に包んであるのに。
僕がびっくりして彩乃を見ると、彩乃が肩をすくめた。
「総司さんの声がしてる。左之さんと平助くんもいるの。『皆、驚くだろうな』『このぐらい対処してもらわなくちゃ困ります』…ん~。なんかね、夜中になんかやるみたい。奇襲とか言ってる」
げっ。
彩乃がまた耳を澄ましている。
「ん~。覆面して、平隊士を襲うんだって」
なんて傍迷惑な…。がっくりと肩を落とすと、彩乃が僕の肩をぽんぽんと叩いた。
「明日行こ?」
「そうだね」
仕方なく僕たちは石鹸をしまい、蒲団を敷いて寝る用意をする。




