第6章 政変…のはずですが(5)
数歩分、斉藤は僕から離れると、両手を刀にかけた。
次の瞬間、鞘から刀が抜き放たれる。その瞬間に上からの袈裟斬り。
刀が納められる。
次は横になぎ払う。これも早い。刀が抜けた瞬間に、敵は斬られているな。
刀が納められる。
動きが凄く綺麗だ。とても静かで、そして的確に動いていく。なんていうんだろう。鬼神じみた動きっていうのかなぁ。攻撃でありながら、まるで踊っているような感じがする。
次は、刀が抜けた瞬間に軽く首の高さで動いたと思ったら、ドンと音がして突きが出た。頚動脈を切ってから、突きという感じかな。
刀の刃は横向きだ。
「そういえば、総司も平突きだよね」
そう。刃を横にした突きだ。
「なんで?」
「骨がある」
はい?
僕が理解できなかったことが分かると、斉藤は下ろした刀をもう一度水平に持ち上げた。
「胸の位置には骨がある。骨に当たらないように横にする」
ああ。そういうことか。肋骨があるから内臓…肺とか心臓を狙うのに邪魔な訳だ。
そうして斉藤はもう一回、誰もいない空間に突きを入れた。
「突きは引くときが大事だ。突くときよりも抜くときのほうに力がいる」
そういって、力を入れて抜いてみせる。
「突きが決まると、思ったよりも抜きにくい。そこを敵に狙われることがある。心しておけ」
「ん。ありがとう」
僕は何もない空間に、マネをして平突きを入れてみた。まあ使うことはないとは思うけど。
「こうだ」
握り方を直される。横から柄を掴む形だ。ちょうど肘の下に柄が入る。
「こうしたほうが力は入る」
「斉藤」
「なんだ」
「ありがとう」
そう言うと斉藤は変な顔をした。
「礼を言われる筋合いはない。お前は一子相伝の体術を、禁を破って教えてくれようとしている。それに俺も応えたまでだ」
あ~。変な顔は照れてたのか。分かりにくい男だ。
僕は思わず笑みがこぼれた。ますます斉藤が変な顔になる。苦虫を噛み潰したような、笑いをこらえているような。なんだろう。見たことのない表情だ。
「それでもありがとう」
「礼を言ってる余裕があったら、まずは鞘を刀で削らない稽古をしておけ」
あはは。照れてるよ~。でも僕は素直に頷いた。
「うん。そうする」
それから僕はしばらく鞘と格闘していた。その横で、斉藤は僕が教えた技をおさらいして、シャドー合気道っていうの? なんかやってた。うん。僕より彼のほうが早く上手くなりそうだよ。




