第6章 政変…のはずですが(4)
技を二つほど教えたところで、僕は道場の隅においた刀を取りにいった。
「今度は抜刀術の番だよ」
斉藤は無表情ながら頷くと、腰に刀を差す。僕も同じく刀を差した。
「刀が鞘離れした瞬間に相手を切りつける。それだけだ」
いやいや。それじゃあ、分からないから。
しっしっと、追い払うような動作をしたので、僕は斉藤から離れた。
斉藤が軽く刀に手をかける。
次の瞬間。本当に瞬間だ。刀が下から上に斜めに走り、上で折り返して戻ってきた。人が立っていたら、意識する前にわき腹から肩口に向けて斬られて、同じ経路で斬り下ろされる感じだろう。
「はやっ!」
僕は素直に言葉に出した。斉藤がすばやく納刀する。
「抜刀は左手で鞘をしっかりと引く。鞘離れする瞬間に刀を返す。その反動で刀が飛ぶ」
右手で刀の柄を摑み、ゆっくりと鞘から抜きながら、刀が鞘を離れる直前に左手が鞘の上下を返した。つまり最初は刀の刃が鞘の中で上を向いた状態なんだけど、抜く寸前に刃が下を向く。その状態で右手を上に上げていくと、刀は相手に向かって刃を突き立てる形になる。
なるほどね。
通常なら抜いて、構えて、それから斬る。だけど斉藤のやり方だと抜いた瞬間には、もう相手を斬りつけていることになる。それだけ攻撃までの動作が少なく、早い。
だから殺気を感じさせなかったわけだ。
敵と認識したとたんに切り伏せてしまえば、相手は殺気を感じる前に死ぬことになるだろう。しかも人間の死角である下から刀が飛んでくるんだから、怖いよ。
斉藤がやったことを見よう見まねで僕もやってみる。でもすっと行きそうにないんで、ゆっくりね。
「ギリギリまで、そのまま抜け」
斉藤は僕がゆっくり抜いているのを見て、そう言ってきた。ゆっくりと抜いていくと、切っ先を残すぐらいになって、言われる。
「そこで鞘を返す」
左手首を使って、鞘を返す。そのときにはもちろん右手もそれにしたがって、肘をあげて上から刀を掴む形になる。
ちなみに刀に手をかけるときには、下から拝むようにする。手首が下で、指が上。それを途中でひっくり返すわけだ。
「そのまま相手に斬りつける」
素直に刀を誰もいない空間に向かって走らせた。
「それを早くやればいい」
そんな、簡単に言うけどさぁ。
僕はもう一回、今度はすばやくやってみたけれど…。
ジャリジャリジャリ…。刀と鞘が嫌な音を立てる。
「削ってるぞ」
いや、分かってるって。
「右手と左手の角度が合ってないから、削る」
うう。分かってるけど、合わないものは、合わない。
「鞘が壊れる」
あ~う~。
どうやら鞘をひっくり返すタイミングと、刀をひっくり返すタイミングが合っていないらしい。おかしいなぁ。一緒にやってるはずなのに。
斉藤がため息をついた。
「ゆっくりやって、慣れろ」
僕もため息をつく。
「そうだね」
自分の刀にもう一回手をかけようとして、ふっと思いつく。
「ねえ、そうやってすばやく斬りつけるのは、下からだけ?」
斉藤の眉間にしわが寄る。
あはは。ビンゴ。
「見せてよ」
僕は無邪気に言ってみた。斉藤は一瞬躊躇したようだけど、まあ、あまりにヘタな僕の剣を見て、どうやら見せてもいいかと思ったらしい。




