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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
628/639

間章  練習

-----------トシ視点-------------------


「How do you do.」


「あうどーどー」


「違います。How do you do.」


「あうどうーどうー」


 はぁ。ばあさんから大きなため息が漏れる。ばあさんって言うと怒られるんだよな。メアリだ。メアリ。泣きそうな顔で下手な英語を喋っているのはルイーズだ。


「Hello.」


「ふろー」


 はぁ。またため息。


「まあ、そのぐらいにしといちゃどうだ」


 俺がそう言ったとたんに、ギロリと睨まれた。


「この屋敷にいる以上、英語ぐらいは喋れてもらえないと困ります」


「まあ、そうだけどよ」


 って、俺とこのばあさんが喋っているのは日本語だ。俺の英語よりも断然、ばあさんの日本語の方が上手い。


「ミスター土方」


「おう」


「あなたも一緒に練習をなさったらいかがですか?」


 やべ。矛先がこっちを向きやがった。


「いいんだよ。言葉なんてもんは通じりゃいい。…と宮月も言ってたぜ」


 宮月の名前を出せば、ばあさんはさらに嫌な顔をする。


「前々から思っていましたが」


「なんだよ」


「あなたはマスターに対して無礼ではありませんか」


「そうか? あいつが良いって言ってんだ。いいだろうが」


「日本人は目上のものを尊ぶ風潮があると聞きましたが」


「仕方ねぇだろうが。あいつに会ったときには、まさかあいつの方が年上だなんて思っても見なかったんだからよ。染み付いちまったもんは仕方ねぇんだよ」


「では私に対してのその言葉遣いはどうなんですか?」


「うっ」


 思わず黙り込めば、じーっとばあさんがこっちを見てくる。なんか言わないとヤバイな。


 そのとき、コンコンと軽いノックの音と共にドアが開いた。黒髪のすらりとした背の高い男が現れる。噂をすればなんとやら。宮月だ。


「Mary, you should take things as they are and be happy.(メアリ。キミは事態をあるがままに受け止めるべきだよ。そうすれば幸せだ)」


「Master. あなたがそんなだから規律がどんどん乱れるんです」


「規律なんてどうでもいいよ。それよりもお茶にしない? レイラがクッキーを焼いたんだ。それにミントとレモンバームが良い感じに育ってね。お茶にはぴったりだ」


 意味ありげにルイーズにウィンクをすると、宮月は庭で待っていると言い置いて去っていってしまった。


 思わず残された三人で顔を見合わせた後でため息が零れる。


「もう少し当主らしくなっていただかないと…」


「いいんじゃねぇか? あいつはあれで」


「それよりも話が逸れました。あなたの言葉遣いは…」


「あ~。ルイーズ行こうぜ。宮月が待ってる」


「え? ト、トシ?」


 さっさとルイーズの腕を取ってドアを抜ければ、慌てたようにルイーズがメアリのほうを振り返った。


「え、えっと…れ、っと…れっと…ごー。とーがーざ。」


 Let's go together. って言いたいのな。


 ちなみに俺とルイーズが喋っているのは、ルイーズの国の言葉と英語のちゃんぽんだ。まあ、通じればいいんだよ。通じれば。


 ついでに言うならば、宮月の野郎はルイーズの国の言葉まで喋れるらしい。一体あいつは何ヶ国語喋るつもりだ? 


 ルイーズとは簡単な意思疎通だけで、複雑な話はできねぇとか言っていたが、それで充分じゃねぇか。俺なんかもっと適当だぜ?


「おい。ばあさん。一緒に行こうぜ」


 俺が日本語で言ったとたんに、ばあさんの表情が曇った。


「私は『ばあさん』ではありません!」


「すまん。すまん。メアリさん。とりあえず宮月を待たせちゃまずいだろ?」


 こういうときには宮月の名前を出すに限る。このばあさん、すこぶる宮月には甘い。こうして俺達は騒ぎながら庭へと向かっていった。


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