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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
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間章  迎え(1)

---------- トシ視点---------


 乾いた大地、煉瓦で出来た家。日本とは全く違う風景に感慨を受ける。ようやく戻って来られたぜ。ルイーズの居場所を突き止めるまでも長かったが、ここへ来るまでも長かった。


 なにしろ直行便なんてねぇところだ。飛行機を乗り継ぎ、列車に乗り、途中からは公共機関なんてもんはねぇ戦場だ。迷彩されたジープを自分たちで運転してここまでたどりついた。


「もっと西だそうだ」


 ルイーズがいる軍の駐屯地と思われる場所へ聞き込みへ行ったジャックが、首を振りながら戻ってくる。デビにジャック。本当は俺だけで来るはずが、こいつらも付き合ってここにいる。傭兵費用は払えねぇと言ったのに、どうやら宮月の野郎に直談判して許可をもらったらしい。まったく。頭が上がらねぇぜ。


「おい。ここだって話じゃなかったのか?」


 文句を言う俺に、デビが止めに入る。


「あのね。戦場なんて移動していくものなのよ。もうちょっとなんだから落ち着きなさい」


 ちっ。俺だって分かっちゃいるんだが、気が急いてならねぇんだ。事前の情報ではルイーズが入った部隊はこのあたりで展開しているはずだったんだぜ? だがデビが言う通り、戦場は動くもんだ。当初予定していた場所よりも西側へと移動していやがった。


 こういうときには付いてきてくれたデイヴィッドとジャックの顔が広いのが役に立つ。あいつらは戦場においては結構、名の知られた傭兵だった。まあ、名前はケニーだのジョシュアだのと、その時々において使い分けていたようだが、知り合いが多いということはありがたい。


 しかし…女も銃を手にして戦う時代かよ。これじゃ、男が戦いに出る意味が無くなるじゃねぇか。女子供を守るために戦うって言うのによ。


「車はここまでだな」


 運転していたジャックが呟いて、車が止まる。見れば先は瓦礫の山だ。煉瓦の壁が崩れて土台だけとなった家が並び、道はとてもじゃねぇが車で進むのは厳しそうだ。


「戦場はもうちょっと西ね」


 デビが耳を澄ます。確かに一番激しい銃の音がするのは、ちっとばかり距離があるように思える。それでも撃ってくる奴がいるかもしれねぇってことで、デビを先頭にして、俺たちは激しさを増す戦場へと近づいていった。三人とも迷彩服だ。茶色を基調とした砂漠用迷彩って奴らしい。確かに地面や壁の色と同化して見えにくい気はするな。


「トシ。あれ…」


 デビが指差した先に何かが落ちていた。辛うじて人だと分かるものがいくつも転がっている。その中に背格好からいけば女というよりは少女というものが混じっていた。


「まさか」


 俺はデビの制止も聞かず、駆け寄って抱き起こした。俯くように横向きで倒れていた身体を引き起こせば、見覚えがある顔が現れる。


「ルイーズっ!」


 見れば腹には穴が開いていて、右手は吹っ飛ばされて千切れていやがった。見るからにやばい。腹からは臓腑が飛び出ていやがるのを、必死で抑えて中に収めようとするが収まらねぇ。しかも血がどくどくと流れてきやがって、もう俺の手は赤というよりは黒いぐらいに染まっていた。


「ルイーズ! しっかりしろっ!」


 怒鳴れば、ルイーズがかすかに目を開けた。真っ青な唇が震えながら声を絞りだす。


「わ…。てん…ごく? トシが…いる」


「バカを言いやがる。まだ死んでねぇよ」


「じゃあ…」


「迎えに来たに決まってんだろ。こんなになりやがって」


 俺は両腕でルイーズを抱きあげた。右手が無いせいか、やけに軽く感じやがる。それがキツイ。畜生。俺に黙って、こんなことになりやがって。だが感傷に浸るのは後だ。激戦の場所から少しは距離があるとは言え、流れ弾が来てもおかしくねぇ。ジャックがそばにあった腕を見つけて拾いあげた。細い腕だ。指先から肘のわずか上までが、そのままの形で落ちていた。肩との間は吹っ飛ばされちまってねぇじゃねぇか。


「こっちよ」


 デビが俺を手招きする。デビの後に続いて、建物の影に隠れるとルイーズを下ろした。持ってきた荷物の中から包帯を出して、ジャックが手際よく上腕部を紐で縛って止血をするが、血が止まらねぇ。巻いた布が凄い勢いで赤く染まっていく。


「ねぇ…わた…し…死ぬ…よね?」


「喋んな。死なねぇよ」


 腕を縛り終えたジャックが腹にも包帯を巻く。巻いた端から白い布地がどす黒く染まり、血が滴る。まるでコイツの命が落ちていくようだった。


 ルイーズの傷は助かる傷じゃねぇだろ。どうすりゃいいんだよ。こういう傷は幕末で嫌ってほど見ている。そんなに長く持たねぇのは分かった。思わず懐から携帯電話を取り出す。その手をデビにつかまれた。


「何する気?」


「宮月の野郎を呼び出すんだよ。あいつしか助けられねぇ」


「駄目よ」


「ああん? 何でだよっ!」


 ドスを効かせた俺の一喝にもデビは動じなかった。


「間に合わないのが理由のその1。そしてもう一つ。マスターをこんな戦場に呼び出すなんて正気の沙汰じゃないわ」


「は? あいつなら死なねぇだろ」


 デビとジャックが揃って眉を顰める。


「マスターは眷族の命を握ってる。マスターが死ねば、眷族の命は削られる。ましてや…次のマスターの候補は居ないのよ」


「戦場に呼び出すのは無謀だ」


 ジャックまで言いやがる。ちっ。ふざけんなっ。


「じゃあ何か? このままか? このまま見捨てろっていうのかよっ!」


「仕方ないわよ。戦場だもの」


 そんなことは言われなくたって分かってんだよ。戦場だよ。くそっ。八方塞がりかよ。なんとかできねぇのかよ。せっかく見つけたっていうのに、何もできねぇのかよっ。俺はなす術もなくルイーズを抱きしめた。


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