The Previous Days 後編(15)
「先生。先生って若いわりには、固いですよね~。なんか年取ってるっているか~。そんな感じ?」
最近来るようになった大学生の男の子に言われて、僕は内心ギクリとする。
「そう?」
その言葉にたまたま聞いていた年配の教会の人も笑った。
「確かに宮月先生は、最近の若者らしくないですね」
「まあ、流行からは乗り遅れるタイプなんで…」
苦し紛れに言えば、最初に話しかけてきた男の子がさらに笑う。
「そう言えば、先生から来るメール、絵文字もないし。凄い固いですよね」
それには他の教会員の人が口を挟んだ。
「教会からのお知らせに絵文字入れたりするのは、社会人としてはダメでしょう」
「そうなんですか~?」
大学生の彼のほうが諭されていた。
うーん。絵文字ね。少しはそういうものを使うほうがいいのかなぁ。たしかに教会に来ている学生からのメールは、簡単なものだと絵文字や顔文字が使われていたりする。
一体、自分が今、いくつの設定だったか忘れてしまっているけれど、二十代のはずだから少しは若者らしくするほうがいいかもしれない。
そう思って、僕は少しばかりネットや自分のところに送られてくるメールを見ながら、文体などを研究することにした。
教会のお知らせのメールにも、高校生と大学生が中心の青年会や子供会に出すようなメールには絵文字や顔文字を入れたりして工夫する。
とたんに最初に声をかけてきた大学生の彼が反応した。
「先生。やっぱ、そういうほうがいいよ。読みやすい」
うーん。よく分からないけれど、そういうことらしい。ま、彼らが喜んでくれるなら、いっか。社会人の行動としては、どうかと思うけれどねwww (←使ってみた・笑)
その一年後ぐらいだったかな。
初めて教会に来たご夫婦が、不思議なことをした。
礼拝が始まる前、僕はいつもドアのところに立って皆を迎えるんだけれども、そのときに初めてきたご夫婦が、僕の顔をマジマジと見つめてきたんだ。
その目はなんだろう…。二人とも本当に泣きそうな表情だった。
「み…つき…ま」
奥さんのほうが言った言葉が上手く聞き取れなくて、僕は彼女に問うような視線を向けた。
「えっと…何か言いました?」
彼女が驚いたように僕の顔を見る。その隣で旦那さんが小首をかしげた。彩乃と同じ癖だ。
「あの…みや…いや。えっと…牧師さん…私達に見覚えは無いですか?」
「はい?」
僕は二人の顔を見たけれど、覚えがない。
僕はわりと記憶力がいいほうなんだけどなぁ。
「えっと…どこかでお会いしていますか?」
はっとしたように二人の表情が改まる。
「失礼しました。知人に似ていたもので…」
それにしては、さっき呼ぼうとしていたのは、僕の名前じゃないか?
そう思ったけれど、やはり二人に見覚えがない。
僕は気のせいだと思うことにして、その出来事は記憶の中にしまい込まれた。
彼らは和泉さんというご夫婦で、ご主人が海さん、奥さんが小夜さんと名乗った。
ご主人のほうは四十代か五十代か、そんなぐらいだろうか。奥さんのほうは十代に見えるぐらい若い年の差夫婦だった。それでも凄く仲が良くて、その後、二人で揃って教会に来るようになった。たまに赤ちゃんを連れてくることもあって、ご婦人方の人気者になっていた。
そんな感じで、彩乃が高校生だった間の三年間はあっという間に過ぎた。
大学は行きたいところがあるというので、彩乃はかなり必死に勉強していた。海外資本で語学とキリスト教教育が盛んな学校だ。受かったときには大喜びして、僕は盛大にお祝いをしてやった。
そして彩乃の高校卒業後。春休みを満喫していた時期だった。僕らは犬や猫が最近、教会の付近で行方不明になるという話を聞く。
飼い猫が行方不明という飼い主からの依頼で、教会の敷地内を探しているところで、桜の木の下にできていた穴に落ちた…。
落ちた先はありえないことに、幕末だった。
なんでこんなことに…と思っていたら、現代では亡くなっている父さんが過去にやらかしたせいらしい。
僕らは幕末を乗り越え、過去の父さんの力で現代に戻してもらうことに成功した。
あれから数年。妹は落ちた穴の中で見つけた彼氏と結婚をする。その結婚式に出席するために僕は久しぶりに日本に帰ってきた。
翌日の結婚式を控えた久しぶりの和風の家は、賑やかだ。
海外を巡る武者修行から帰ってきたトシ。僕にくっついてきたデイヴィッド、ジャック、李亮。それからレイラ。
もちろんここ数年間の家主である総司と彩乃もいる。明日にはザック叔父さんにクリスタル、キーファーも来る。キーファーの傍にはきっとアルフレッドもいるだろう。
僕は茶の間でのんびりしながら、ふっと思い立って皆に声をかけた。
「せっかくだから外食でもする? どっかレストランを予約しようか?」
そう声をかければ耳のいい一族のこと。聞きつけてトシとデイヴィッドたちがすぐに顔を出してきた。
「日本料理がいいな。久々だ」
トシが言えば、デイヴィッドも賛成する。
和食かぁ。どっかいい店があるかな。
僕が考え込めば、すぐ傍でカチャカチャとキーボードを打つ音がして、レイラが調べてくれる。
「二駅ぐらい先だけれど、食べられるところがあるわよ。この人数ならお座敷が貸切になるんじゃない?」
「いいね」
すぐに彼女は予約を入れてくれた。そこへひょいっと総司と彩乃も現れる。
「ご飯を食べにいくなら、私たちも行きますよ」
「お魚、わたしも食べたいよ?」
僕は微笑んだ。
「もちろん。みんなで行くつもりだよ。李亮も呼んで…って居たか」
「はい」
李亮はいつものように、皆の後ろに控えていた。
「じゃあ、出かけよう」




