第6章 政変…のはずですが(1)
大和屋の事件は結構大きなことになっていた。実は会津藩は京に藩の兵を一定数置いているらしいんだけど、ちょうどこのころ、会津藩では藩兵の交代の時期だったそうだ。ところがこの事件が起こったために、交代した兵が会津に帰るところを引き止められて、悪化した京の治安維持に当たっている。つまり会津藩の在京兵力は今、二倍だ。
「というのが、一般的な見方ですけどね」
と話すのは、善右衛門さん。あれから僕はできるだけ昼は避けて、夜だけ彼と接触している。今は夜の献血協力依頼キャンペーンの最中だ。
「実は近々、大きなことが起こるんじゃないかと思いますよ」
確かにこのところ街が落ち着かない。そういえば僕が知らなかっただけで、天誅組はあちこちで人を殺していたらしい。
そして先月は、鹿児島湾に英国艦隊が来航し、薩摩と戦争をしていた。
大雑把な歴史の流れからいけば、攘夷派が諸外国と戦争→勝てないと知って、攘夷ではなく対等な開国を目指す→そのために幕府を倒して天皇中心の政治へ→維新…って感じだ。
歴史は今、どこまで行っているだろう。
かなり大きな事件はそれなりにわかっていても、小さな事件は日々の生活の中で埋もれてしまって、終了してから「あ、あの事件か…」とわかる程度だ。
しかもインターネットもテレビもないから情報が遅い。一番早い情報網ですら数日から数週間。これじゃあ、何がなんだかわからない。しかも正確じゃない。
「ところで、今度また昼間にうちに寄ってください。お小夜も楽しみにしていますから」
だ~か~ら~、その『お小夜』が問題なんじゃない。
「別に正妻にとは思っていませんよ」
うわっ、直球で来たよ。避けられないよ。…って正妻じゃない?
意味が理解できなくて善右衛門さんを見ると、善右衛門さんは最近くせになっている首をかしげてから言った。
「彩乃さんがいらっしゃいますしね。人間ですから。妾で構いません」
ちょ、ちょっと待て。爆弾発言。
妾っていうのは、第二夫人とか言えばいいのか。えっと、つまり愛人のこと。でも彩乃がいるから妾って…。
思わず彩乃を振り返る。彩乃はカモ…もとい献血志願者をその耳と目で探していた。
そこで僕は思い当たった。そうだよ。善右衛門さんといえば、僕たちの親か、下手したら祖父母ぐらいの世代なんだ。だから近親者同士の結婚は当たり前の世代なわけで…。
うん。ここは彩乃には悪いが、僕の虫除けになってもらおう。
「確かに僕は彩乃を溺愛してますしね。彩乃を悲しませることはしたくないんです」
思わせぶりにそう言えば、善右衛門さんは勘違いの方向で理解をして、深いため息をついた。
「それは見ればわかります。すぐにはとは言いません。いい娘ですから考えてみてください」
ちょっぴり残念そうに、でも絶対に諦めないという顔で善右衛門さんは言った。
いやいや。僕に勧めてどうするの。しかも妾で…って。親の言うことじゃないよ? とか言いながらも、なんとなく理由は思いあたる。
ま、僕も善右衛門さんにいろんなところで助けてもらっているから、お互い様か。
しかし…。まいるね。




