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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
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The Previous Days 中編(11)

 それからもう一つ。僕が意識的に避けていたこと。キーファーだ。


 儀式の当日の朝、キーファーはニューヨークから父さんの眷族を引き連れてやってきた。相変わらずの性別も国籍も不明のファッションで、アクセサリーをじゃらじゃらつけて、茶色のドレッドヘアだった。まあ、非常に似合っているんだけどね。


 キーファーは僕のいとこで、ニューヨークでかなりグレイゾーンな仕事をやっている。グレイゾーンというか、黒の領域にも足を踏み入れているんじゃないかと思うけれど、その部分については敢えて聞いていない。


 とにかくファンキーというか、ぶっ飛んでいて、僕に合うなりテンション高く僕の周りを飛び回るものだから、僕は一刀両断した。


「キーファー。言っておくけれど、今回の滞在中に僕の邪魔を少しでもしようものなら、一生君とは会わないから、そのつもりで」


 そう言った瞬間の彼の顔は、もうなんというか、地獄に落とされたような顔をしていた。


「その代わり、邪魔しなかったら滞在中の一日を君のために開けるよ」


 そう付け足せば、地獄から天国に上がったぐらいにハイテンションになる。やれやれ。


「アニキっ! 俺はアニキのために、邪魔しないっ!」


 そう誓って、その日からキーファーは僕の半径3m以内には近づかなくなった。それはいいんだけれど、物影からじっとこっちを覗いている姿は笑ってしまう。なんでそんなに僕がいいんだ? よく分からない。


 というか、今回はキーファーの組織の幹部も何人かいるはずなのに、それでいいんだろうか?


 イギリスから去る前に、キーファーとの約束を守らないとな。


 同様に一族がいる状況の中でいくつかやっておきたいことがあった。


 一つは戸籍をどうにかしないといけない。僕の戸籍はかなりの年齢になっていて、実情と合わなくなっていた。父さんがどうやって戸籍を操作していたのか知らないから聞いてみないといけない。それに伴う経歴。この先、何をするにしても一応は整えておいたほうがいい。


 もう一つ別件は、ニコルと進めている所有会社のこと。ニューヨークの会社がとにかく酷くて、それだけでもどうにかしておきたかった。


 戸籍の件はメアリに相談しているところをレイラが聞きつけて、翌日には作り上げてくれていた。


 いつの間にかレイラはコンピュータのエキスパートになっていたらしい。前に会ったときにはコンピュータなんてものは無かったからね。考えてみたら、会うのもほぼ50年ぶりだ。


 ついでに経歴も作っておいてもらった。おじいさんに言った大学をスキップして卒業している件。これについては思うところもあって、卒業証明の書類を作っておいて貰うことにする。


 あとはニューヨークの会社をどうにかしないと。


「ニコル。社長の入れ替えをしよう。それでも表立って社長だけ入れ替えても上手く機能しないだろうから、数年後に交代劇をやるとして、いい人材はいないかな?」


 トップに立つためには、周りの人間も自分に協力するものに代えないと、上手くいかない。ということを言っているのはマキャベリだけれど、この場合はまさにその通りだろう。


 数年後を睨んで、自分の手駒を見つけて社長になるような、器のある一族を会社に送り込む。僕としてはそうしたほうがいいと思っていた。


 ニコルが少し考えこんでから、きゅっとモノクルの位置を直す。


「一人いますね。ジェームズ・クラーク。今はザカライアス様の貿易会社の社員です。一族としては新参者ですけれど、いかがでしょうか」


 ニコルが推すなら大丈夫だろう。僕は頷いてから一つ気づいた。


「あ~。ザック叔父さんのところか…。引っ張って大丈夫かな? ザック叔父さんに確認したほうがいいだろうね」


「すぐに致します」


 ニコルは足早に出ていった。


 ザック叔父さんは心よくOKしてくれて、そしてジェームズが僕のところへやってきた。


「どうも始めまして」


 挨拶をされたけれど、薄笑いをしながら上目遣いに伺うような態度が気に食わない。なんというか…調子がいい奴という印象だ。日本語で言うなら太鼓持ち。英語ならa flattererだ。


 僕は当主に就任したし、それにこれだけの財産があるから仕方ないんだろうけれど、基本的に媚びてくる奴は嫌いだ。


「どうも」


 僕はちらりとニコルを見る。視線の意図を察したのか、ニコルは困ったような顔をした。


「話はニコルから聞いた?」


「ええ。伺いました。おっしゃる通りにさせていただきます。新しい優秀なご当主殿の下で、我々一族は団結して頑張っていかないと。そのためにまずはできることを、精一杯やらせていただきます」


 ぺらぺら喋る奴だ。しかもその言い方に僕はカチンときた。優秀なご当主ね。僕のことを知りもしないくせに。


「ニコル。悪いけど、彼はダメだ」


 僕はジェームズの前で言い切った。


「こういう口先だけの奴は信用できない」


 相手がむっとした顔をしたが、別に僕は気に止める気もない。


「他の奴を見つけてくれ」


 そう言った瞬間に、目の前でジェームズの表情が変わった。へらへらと浮かべていた笑みが消えて、怒りの表情になる。


「何もさせないうちから判断するんですか」


 怒気を隠さぬままに僕に詰め寄るように言う。


「それは君だろう? 僕を知りもしないのに、おべっかか? そういう口先だけの奴は信用しないことにしている」


「それぐらいは社交辞令というもんでしょう。それを間に受けて怒って、何もさせないうちに選手交代? 冗談じゃない」


 へらへらと僕の機嫌をとって、そのまま引き下がるかと思えば、意外に食いついてきた。

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