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第5章  大和屋燃ゆ(9)


 僕が家屋に近づくと、僕を止めようとするものがいた。平山五郎という、芹沢さんのお気に入りの一人だ。隻眼でもかなり剣が強いという話を聞いたぐらいで、あまり接点はなかったけれど、顔ぐらいは知っていた。


 向こうも僕の顔は知っていたらしい。まあ、こっちの人から見たら坊主頭で(とはいえ、現代カットだから、別に本当に坊主なわけじゃないけど)、彩乃をつれて歩いていれば目立つというところか。


「なんだ、お前か」


 僕は黙って抜けようとした。でも腕を捉まれる。


「入ってどうする」


「残っている人はいませんか?」


「知らん」


「知らんじゃないでしょ! 関係ない人まで巻き込むつもりですかっ!」


 思わず語気が荒くなる。僕の言葉に平山が目を剥いた。


「大和屋である時点で、関係ないなんてことはない!」


 僕はぐっと詰まった。確かにそうかもしれない。でも、目の前で罪のない人が殺されていくのは我慢できなかった。逃げてくれていればいいけど…。


 にらみ合った一瞬。僕は力を使った。顔を覗きこめる場所に人がいなかったのと、暗闇なのが幸いだ。


「僕は行きます。離してください」


 ふらふらと平山の手が離れる。


 きっと後で、なぜ手を離したか…なんて理由はわからないだろう。僕は振り返らずに大和屋の中に入った。


 熱い…。火の粉が飛んでくる。


 吸血鬼といえども、全身火傷したら死ぬだろうな。


 そんなことを考えながら、声を張り上げた。火の粉が口の中にまで入り込む。たまに火の粉で着物がこげる。化繊じゃないから溶けないだけマシだ。


「残っている人はいませんかっ! 誰かいませんかっ!」


 僕の耳に人の声が聞こえた。微かだ。


「なんまんだぶ。なんまんだぶ」


 お経を唱えている。



 声がしたほうへ行くと、おばあさんが蒲団の上で寝たまま数珠を手にかけてお経を唱えていた。火が隣の部屋まで来ていて、この場所も煙に包まれていた。


「大丈夫ですか?」


 僕が声をかけると、お経が止まって目を見開いた。


「足が動きません…。置いて逃げてください」


 か細い涙声でおばあさんは言うと、そのままお経を唱え始める。


 そんなことできるわけないでしょ。


 僕はおばあさんのところに行くと、腕と足の下に手を入れて持ち上げた。


「他に残った人はいませんか?」


 おばあさんは、涙で声が詰まって喋れないようだった。仕方ないので、おばあさんを抱き上げたまま、僕は走り出した。


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