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第1章  隊士になります(3)


 もともと僕たちが住んでいたのは、東京のはずだった。でもここは京都で、時間だけじゃなくて空間まで越えたらしい。

 歴史は変えたらまずいだろうとは思いつつ、でも仕事は欲しい。江戸時代って、まともに生活しようとすると丁稚奉公制とかになるから、手っ取り早く稼ごうと思ったら結構非道なことになりそうで…。それだったら人数が多い集団の中にいて、何もしないっていう選択肢をとろうかと思ったんだけど、うーん。浅はかだったかな? とか、ぐるぐると考えていた。

 歴史観と時空パラドックスと倫理観と…。あ、ダメだ。考えていたらパンクした(笑)


 ぼすんと目の前の背中にぶち当たる。土方が止まったのに気づかずに突っ込んでしまった。うわー。汗臭いな。そういや150年ぐらい前って、そんなに風呂とか入ってなかったよね。現代日本は本当に清潔になったもんだ。


「おい。ぼさっとすんな」


 ぎろりと睨まれた。小さな離れの前に立ち止まる我々。あ、ここがあれか。八木邸の離れってやつか。壬生浪士組のころは、八木さんちの離れに宿を借りてるんだよね。


「お前、そういや先生って言ってたな。なに教えてたんだ」


 なんの話って思ってから理解した。さっきの自己紹介だ。


「あ~っと。人の道?」


「なんだ、その疑問形は」


「いや、色々教えてたんですよ。本を読んだり、歌教えたりとか」


 そのとたんに土方の目が興味を持ったように僕を捉えた。


「歌か。歌はいいな」


 それで思い出した。たしか土方歳三って、俳句だったか、なんか詠んでたよな。この時代の人は、結構辞世の句とか詠んでるし。


 ちなみに僕が「先生」っていうのは、教会の先生だったりする。古い教会に入り込んで、老牧師の後をついで、牧師になった。吸血鬼が十字架に弱いっていうのは迷信だ。全然問題ない。平気でお祈りはするし、賛美歌も歌う。日曜日には神様を称える説教だってする。だって僕は牧師だからね。宗教はある意味、どんな時代でも安定した職業だ。不況下においても無くなりはしない。


歌を教えるっていうのは賛美歌のこと。でもこの時代で受け入れられる宗教なのかっていうのは微妙だったので、そのあたりは黙っていた。


僕が何も返事をしなかったので、土方は興味をなくしたようだった。そのままふいっと視線をはずすと、僕たちの後ろにいる沖田のほうを見た。


「総司、適当にしとけ」


沖田にそういうと、土方は自分の部屋と思われる場所に入っていってしまった。ついて来いって言っておきながら、自分で案内するのは面倒になったな。


 ちらりと彩乃を見ると、もう安心しきった顔をしている。僕がいるとこういう顔をしてくれるのは、嬉しいけど、何にも考えてないだろっ、とツッコミたくなる。こういうときには妹って得だよね。


「弱りましたね…」


 この時代にしては高めの背を丸めて、へにゃりと沖田が笑った。この人はちょっと猫背だね。


「僕たちと一緒の六畳の部屋に行きますか」


 そう言って、ちょっと廊下を歩くと、すぐ左側にあった障子張りの引戸をがらりと開ける。


「ここ、ちょっと立て付けが悪いので少し浮かせて開けるのがコツで…」


そう言った沖田の言葉が止まる。僕たちの目の前にあったのは、素っ裸の男の尻だった。ふんどしの線が嫌にリアルで、同性としても見たくない感じ。


そしてその男が振り返った。


「あ、そう」


沖田の名前を呼ぼうとして口が「じ」の形のまま止まる。目線は僕たちの後ろにあった。


僕たちの後ろ? 後ろは…彩乃だ。慌てて振り返ると彩乃も目を丸くして、顔を赤くして固まっていた。


「彩乃、回れ右」


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