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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
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The Previous Days 前編(2)

 僕は彩乃の柔らかい髪の毛を少しだけ撫でてから、薄暗い部屋を出て、店員のおばさんにお礼を言ってからその店を離れた。


 今が秋で助かった。とりあえず外で過ごしていても大丈夫だろう。そう考えて、僕は公園のベンチに座り込む。


 彩乃を抱いたままうつらうつらしていたら、夜中に彩乃が起きて、今度は大暴れを始めた。昼間は大人しく眠っていてくれるのに、なんで夜は暴れまわるんだか。


 しかも赤ん坊の癖に力が強い。人間だったら手に負えないかもしれないぐらい強い力で、手足を振り回し、僕の髪の毛を引っ張ろうとする。


「こら。彩乃。ダメだ」


 昼間の大人しさが嘘のような彩乃の様子に、やっぱり一族だから夜行性なんだよな…と思いながら、僕は彩乃をあやしていた。


 そして漸く最初の夜が明けた。


 昼間は大人しく彩乃が寝ていてくれるので、まずは昼間の仕事を探した。彩乃が傍にいても大丈夫で、それでいてお金が稼げるところ。でもダメだった。


 このご時世、簡単には仕事が見つからない。彩乃が一緒だとなおさらだ。ほぼ丸一日歩き回って僕は悟った。


 そこで奥の手を使うことにする。僕にはちょっと人と違った能力がある。それで人をコントロールして仕事を得ようというわけだ。住み込みで…昼間の仕事。


 それである新聞販売店にもぐりこんだ。本当は子連れがダメだったんだけど、そこを無理やり曲げてもらって、ようやく店舗内の小さく仕切られた部屋の一つが僕らの家となった。


 僕の仕事は、新聞配達と、集金と、勧誘。


 配るのは楽だ。契約している家の一軒一軒に配っていけばいい。本当はきつい仕事なのかもしれないけれど、人間よりも体力的に優れている僕としては楽だった。


 集金は根気だ。そして厄介なのが勧誘だった。


 ノルマがあって、月に何人を取りにいかないといけないというのがあった。これがなかなか難しい。一瞬、コントロールする力でその勧誘をやろうかと思ったけれど、それで次から次へ勧誘するのも問題が起こる気がしてやめた。だから自力だ。それでもなんとか怒られない程度にはやっていた。


 それともう一つ。僕にとって辛いことがある。


 新聞配達のために、朝日が昇る前から起き出して働かなくちゃいけないのに、彩乃は大暴れをする。これには参った。


 最初の日はそのまま出て行ったら、家の中がめちゃくちゃになっていて、非番の人から怒られた。明け方までずっと僕の部屋から騒音が響いていたそうだ。


 仕方なく。本当に仕方なく。僕は給料の一部を前借し、大型犬の檻を買って彩乃をその中に閉じ込めた。


 僕だってやりたくてやるわけじゃない。だけれど、普通のベビーサークルでは、彩乃はその力を使って壊してしまう。


 檻に入っている彩乃を見るのはとても悲しかった。




 半年後。


 仕事にも慣れて、ようやくここを出て安いアパートを借りられるぐらいのお金が溜まったころ、僕は勧誘で行った先から、ホストにならないかと逆に勧誘を受けた。


 聞けば、かなり時給がいい。上手くすれば上乗せも狙える。そうしたら、もうちょっといい生活ができるかもしれない。


 そして…僕は住み込みの部屋を飛び出し、彩乃を連れて安いアパートに移り住むと共に、夜の世界に飛び込んだ。


 夕方。彩乃を檻に入れて、行ってくるよと声をかけて、僕は出かける。


 バブル期よりは静かになったとは言え、自由になった女性たちが押しかけてくる夜の街は華やかだ。その中で見栄えがいいスーツを着て、女性にお酒を注ぐ。


 とは言え、化粧の匂いも香水の匂いも大嫌いで、浮ついた雰囲気も大嫌いで、女性にこれっぽっちも媚びるつもりの無い僕は、氷の貴公子なんて呼ばれていた。


 そんな状態でも「次からも僕を指名してくださいね」と一言、特別に念を押しておけば女性たちは次に来ても僕を指名し、僕から離れない。


 その上、恋人づらをしたいのか、こぞってプレゼントを持ってくる。そんなプレゼントを僕は喜んだように貰いながら、全部裏では売り払っていた。


 お金をためて何をするかって? 


 今の家は安いアパートで、本当に音が漏れていて、どうしようも無かった。僕の耳からすればアパート中の音が聞こえてきて最悪だ。


 もっと防音のいい部屋に住む。それが今のところ僕の目標だった。


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